椛の木陰 
服部 剛

わたしはいつも、つつまれている。 
目の前に広がる空を
覆い尽くすほどの 
風に揺られるもみじのような 
数え切れない、てのひらに。 

その手の一つは、親であり 
その手の一つは、友であり 
その手の一つは、忘れた誰か 

わたしはいつも、憩うている。 
遥か昔からゆるぎない姿で立つ 
大きな椛の木の幹に
腰を下ろし 
数え切れない掌の 
風に揺られる隙間の空は 
涙の日には、陽だまりを。 
ほほえむ日には、雨水を。 
疲れたわたしに、そそいでくれる。 

わたしはいつも、られている。 
大きな椛の木の下で 
数え切れない掌の 
風に揺られる隙間の空に 
うっすらとけた、不思議な瞳。 

親の面影 
友の顔 
わたしの名を呼ぶ誰かの声

いつか
いずれの顔も消え、空に遺される 
いくつもの、不思議な瞳。

わたしはいつも、つつまれている。 
大きな椛の木の下で 
小さい芽を出すいのちとなり 
数え切れない掌が 
風に揺られて唄う時 

今日もわたしは少しだけ 
空を目指して
背丈をのばす 








自由詩 椛の木陰  Copyright 服部 剛 2007-04-24 20:10:01縦
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