融雪プランクトン
鯨 勇魚



あてもなく、この先は、動かされるままに。
意識とは別に、行く先は、南、でした。

無音の、ファンネルからの、伏流は、
見ている人しか、伝わらないなんて。
見えないだけでしょう。

淡く光る、ちいさな合わさる霞。
邪魔にならない、光があるのだろうか。
あんなに、今は、弱い輝き。揺れている。
身体が受け止めるたびに優しい揺らぎづつに。

ぷらん。
くとん。

南へいけば行く程に、冷たい風が刺すのに。
それを、見つけたが為に、
温かさをかんじさせてくれた、
融雪。の、流れ際にまわり。
光る、灯台回転光が揺れながら。

いいえ。これは、あたし達が揺れてるのです。
涙なんてここにたくさんあるのです。
息荒くても海をなぐさめていた箱舟。

水温を計るなら、あたしたちほら、生きてる。
そんな涙を泳ぐ濃緑の中には、
空飛べぬペンギン。
プンタアレナスの空は低くあり、
最南端の岬。
さらにその、
境界線を持たぬ海と空。

あれは、飛んでいるのでしょう、

ペンギン。
親子だろうか。

マゼラン海峡を揺れる、ここは寂しいのです。
歴史すら知らない、あたしは風でいられず、
プンタアレナスの、ぬめりに海洋性の優しさを感じた。
空で、朝焼けで霞む、あの親子を見つけ、
この場所は寂しいと。
身体が、

受動態制をとり震えた。

     なぐさめてあげる
     まもってあげる
     まもれなかったけど  
     たいせつなの
     あなた
     あなた

探してるのだろうか、父をあるいは母を。
たいせつな、存在を探してるのだろうか。
白熱灯の薄明かり、生命のやわらかさ、白む。
けれど、その空間は、まあるく。
強い光、でした。
道標は消えない。

     かえっておいで
     つらいのよ

大丈夫。生きています。
さよならペンギン親子。
入港をひかえたあわただしさを横目に、
浮かぶのはラッコが一匹、

いらっしゃいませ。

ここは最南端の港です。

心のはじっこに触れましたか?

なんて顔、していました。

あたしたち、
融雪の地球、ぐるぐるまわってたのです。
そして時折のやさしさに、出会い、
厳しさを感じながらも、
涙の海に囲まれていたのです。

     なんか
     あたしたち
     ちっちゃいね
     こまかしいね
     ざわざわだよ

くだらない台詞。
遠く、海って、ひろい。

風と鯨の優々。

嘘つき。


自由詩 融雪プランクトン Copyright 鯨 勇魚 2007-04-24 00:35:50
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