自動販売機と俺。
もののあはれ

自動販売機でコーヒーを押すとおしるこが出てきた。

『まいど!』

自動販売機が馴れ馴れしく礼を告げた。
客に対する無礼と商品を取り違えるいい加減さに腹が立ち。
違うぞコノヤロウと自動販売機に苦情をいうと。
飲みたくないのなら飲まなくていいと言われた。
そういう事じゃなくて押したものを出せと凄むと。
お前は飲みたくても飲めない人をどう思うんだと言われた。
可哀想だと思うが俺だって喉が渇くんだと答えると。
だったらぐだぐだ言わずに一気に飲み干せと言われた。
俺は猫舌だから一気だけは勘弁してくれないかと相談すると。
致し方ないから一気だけは勘弁してやろうと言われた。
俺はほっとしてフーフー冷ましながらおしるこをすすり。
もう一度コーヒーを買うために小銭を取り出し自動販売機に入れた。


そしてボタンを押すと今度はおでん缶が出てきた。

『ありがとうございます御主人様!』

自動販売機がメイド喫茶風に礼を告げた。
なかなかいいもんだなあと思いつつも。
俺はアキバ系じゃないぞと自動販売機につかみかかると。
お前は食べたくても食べれない人をどう思うんだと言われた。
気の毒だと思うが俺だって腹が減るんだと答えると。
だったら黙って食べればいいだろうと言われた。
俺はつみれが苦手なので残してもかまわないかと懇願すると。
じゃあせめてチクワだけは残すんじゃないと言われた。
俺はほっとしてフーフー冷ましながらチクワをくわえ。
次こそはコーヒーを買うために小銭を取り出し自動販売機に入れた。


そしてボタンを押すと懐かしのハワイの空気が入った缶詰が出てきた。

『アロハーオエ!(我が愛をあなたに!)』

自動販売機が南国調で礼を告げた。
しかも御丁寧に和訳まで読み上げやがって。
まあ意味は知らなかったけどよ。
しかしお前の愛は空気かと自動販売機に躍りかかると。
お前はハワイアンじゃないのかと言われた。
俺は違うが友達にそういったあだ名の奴が確かにいると答えると。
それ見た事かお前はその友達の想いを裏切るつもりかと言われた。
俺はココナッツの匂いがどうにも得意じゃないので後日。
友達のハワイアンにあげるということで許してくれないかと切望すると。
友達だけは決して裏切るなよと戒められたが許してもらえた。
俺は喧嘩別れしてしばらく会っていないハワイアンの事を思い出し。
今度こそコーヒーを買うために小銭を取り出し自動販売機に入れた。


そしてボタンを押すと今度はミルクティーが出てきた。

『ありがとう。本当はね、いつでも思ってる。。。』

自動販売機が福山雅治口調で礼を告げた。
俺はいつしか怒りを忘れ今度はなんですかと尋ねた。
お前はどうして自分だけが全ての苦労を背負い込んでる様な。
追い詰められた様な顔で日々生きているんだと聞かれた。
俺はうまく答えられず押し黙っていると。
バカだなと笑って叱りながらミルクティーでも飲めと言われた。
俺はほっとして優しい温かさのミルクティーを飲みながら。
もはや喉は渇いていなかったがここまできたらと。
今度こそコーヒーを買うために小銭を取り出し自動販売機に入れた。


そしてボタンを押すと今度こそコーヒーが出てきた。

俺はついにコーヒーにたどり着いた喜びを忘れ。
たかが人間の俺なんかよりもあなたのほうが。
ずっとずっといかしてますねと自動販売機を称えた。

『アリガトウゴザイマシタ。』

自動販売機は照れくさそうに最後だけは機械的な口調で礼を告げた。









自由詩 自動販売機と俺。 Copyright もののあはれ 2007-04-20 17:46:48
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