2007-04-02
馬野ミキ

6時15分
目覚まし時計が鳴る
たぶんあの世とこの世の間にいるみたいな顔をして煙草を吸う
それから秒針がちかちか聞こえだす
引力に引かれるように瞬速で作業着に着替える
タオルと靴下を2セットナップサックに投げこむ
妻の額にくちづけする

現場、南千住-
三つの路線を乗り継いでいく
喫煙所のある駅では必ず煙草を吸う
息を吸って吐くことによって現実を少しずつ取り込む

誰にもいじめられていないのに
まぶたを閉じて全身の毛穴を塞ぐ
かつての忍びの者たちが
「存在」する為に身を隠したように
俺は常に俺から遠ざかる

詰め所で日本銀行は悪魔にのっとられているという人がいる
その人は祈りとかキリストとか予言とか破滅とか乞食とかたびたび言う
俺はびっくりしてしまうがみんなは上手く返答したり交わしたりできる
俺はみんなの能力に唖然とする
俺は早く休憩時間が終わって欲しいといつも思っている

コンクリを打ちすぎたところを今日ははつった
スリーブを出すためにはつった
これはドリルのような機械で余分なコンクリートを削る作業だ

設備は常に建築になめられる
なんでだろう
鉄筋屋は鉄筋しか出来ないのに
空調設備はスリーブ設置、取り外しの他に鉄筋の結束もはつりもするのに
なぜ設備屋は常に建築の下に位置するのだろうか
かち合った場合常に設備は建築にその場を譲るという暗黙のルールがある。
最上級の土工と最上級の鳶
最上級の鳶は鳶しか出来ないが
最上級の土工はすべてが出来る
日本で最上級の鳶100人が集まっても建物は立たない
だが日本で最上級の土工が100人集まったら何でも立つだろう
だが土工の日当は圧倒的に鳶より低い
なぜか
日本人は万能な才能を嫌う
それはぼくたちのしなやかな配慮だ
日本人はアマゾンの未開の部族さえ泣ける程やさしい
憎たらしい程につつしみ深い日本人のアイデンティティ
お前らが秋葉原を徘徊してる間にお父さんはいなくなったよ
慎み深き大和!

妻からロングメールで前期破水の知らせが来る
日暮里、西日暮里、駒込
俺は車窓にへばりついて外界の空気を求める
時代遅れの看板とさびた建物が見える
山の手線の駅前なのにこんなに未開なのか
池袋
西口東口中央口東武丸の内西武池袋
妻からロングメールが3通届く
俺は車内で氷結を飲みほして空き缶をポケットに隠した、


未詩・独白 2007-04-02 Copyright 馬野ミキ 2007-04-02 21:50:50縦
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