宇宙犬ライカ
山田せばすちゃん

宇宙犬ライカは
本当は「クドリャフカ」という名前で
ロシアの犬だからなんとなく
大きな犬なんか想像しちゃいそうだけど
彼女が実は体重5キロくらいのきわめて小さい犬だったのは
(言い忘れてたけど「クドリャフカ」は女の子の名前だ)
大きな声ではいえないけれど
当時のソ連のロケットが甲斐性なしで
あんまり重いと飛べなかったからに決まってる

とりあえずロケットで大気圏の外に飛び出した「クドリャフカ」には
(以下めんどくさいので「クーちゃん」で統一)
実は今で言う「バウリンガル」のような音声解読装置が
レーニンの英知とスターリンの威光の
輝くべき共産主義科学の勝利の証として
取り付けられていたのだがそのとき
「クーちゃん」は実は小声で「ヤーライカ」(私はライカ犬です)と
つぶやいたのだけれどもその声は
通信機器のおそらくは米帝の卑劣な妨害工作に邪魔されて
「ヤーチャイカ」(私は鴎です)と伝送されてしまったらしく
「君君、君は鴎ちゃうやん、犬やん」と
地上管制局から突っ込みを入れたのが誰だったのかは
ソ連邦崩壊後のドサクサで記録は残ってはいないのだけれど
おそらくはその口ぶりからして
ソビエトの西の方の出身の技師だったと思われる

さて「クーちゃん」には大気圏外を飛行しながら
後にやってくる有人宇宙船を待ち
その後有史以来初めての宇宙空間における犬の散歩という
まさに共産主義の勝利を宇宙的に知らしめるはずの歴史的任務が
期待されてはいたのだけれど
その期待を満たせる技術も資金も当時のソビエトに
あるわけがなく
「クーちゃん」は哀れにもその命の火が消えるまで
大気圏外を周回しながらまだ見ぬ主人を待つことになるのだが
実はその時点で「クーちゃん」は「宇宙犬ライカ」ではなくって
「忠犬ライカ」と名前を変えられるべきだったのかもしれない
あるいはもし
もしかして「人類初の女性宇宙飛行士」が「クーちゃん」の宇宙船を発見し
厳しい宇宙空間を生き抜いた「クーちゃん」と
感動的な一年ぶりの再会なぞを果たしたりした暁には
われわれは高倉健と荻野目啓子による角川映画のそれよりも早く
エイゼンシュテイン監督によるソビエト映画「大気圏外物語」に
涙流していたのかもしれないけれど

ともかくも「クーちゃん」の後に
宇宙を飛んだソビエトの女性宇宙飛行士は
地上に向けて「ヤーチャイカ」と送ってよこした
それは管制局でのやり取りをあるいは小耳に挟んだ
テレシコワの精一杯の思いやりだったのかもしれないけれど



自由詩 宇宙犬ライカ Copyright 山田せばすちゃん 2004-04-26 12:59:48
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