丘を登る歌に急かされて私は喧騒さえ後ろ手にする
藤原有絵

乗り馴れない自転車を漕いで 漕いで
ああ この街って本当に猥雑

それを呼吸のように受けいる人
ぴりぴり緊張を走らせて通りすがりたい人

様々とは知っていますが
私はもちろん後者です


地下鉄の疲労の匂いに包まれるくらいなら
行けるとこまで自分の足で

心臓が破れそうな丘だって
孤独な気持ちひとつで私のもの


不適合者の烙印を賜る
いつかの春

零れ落ちましたよ
それは当たり前のように

悟りを開いたね
って 笑う友人を笑って過ごしましたよ

私たちは
ずっと向かっている
やがて等しく訪れる死の瞬間に

その事を意識しないで
生きる事が光に繋がると信じていられる


神様
いませんよね

いなくていいです


酔っぱらって上機嫌な人も
耳障りな笑い声あげる女の子たちも

やがて愛するホームブランドへ


私はそれらを後ろ手に
身体で春をつかみ取ります

屈折した光のなかに
色々な色がある事を

学んだ日を記憶から引きずりだして

たまには強引に納得しながら


私は自転車を漕いでいます
私の為に
私にも等しく訪れるはずの春を思って

脆弱でも
強靭にでも

時に軽やかに演じてみせます


私は
私の苦痛を言い訳に

この春を逃すなんて
本当に厭なんです




自由詩 丘を登る歌に急かされて私は喧騒さえ後ろ手にする Copyright 藤原有絵 2007-03-29 02:13:58
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