ババロア
よだかいちぞう

彼女はびしょびしょに濡れた服を着て
この服いいでしょ
といった

ぼくは濡れてるから着替えた方がいいって
いったけど
彼女はそのうち乾くから平気だよと
まったく気にしていなかった

いつまでも濡れた服を着ていると
いけないというのは
いつからか常識のようにぼくのあたまの中に入っていたので
ぼくはその濡れた服ばかりに気を取られていた

次の日も
彼女はびしょびしょに濡れた服を着て
ぼくの前に現れた

ぼくがまた、また服が濡れてるよと
いっても
彼女は何も心配していなかった

彼女とぼくは街中を歩いた
すれ違う人が
びしょびしょに濡れた彼女の服に気付いても
驚かず、なにも関心を示さないようだった
ぼくも、彼女と出会う前に
服を濡らした人とこんなところですれ違ったとしても
別になにも思わなかっただろ
そんなことを考えながら彼女と歩いていると
ぼくはなにかいままでずっと
勘違いして居たんじゃないかという気がしてくる
けれどもびしょびしょに濡れた服は
誰の目にも彼女の体に貼り付いていて
あまり心地よさそうには見えなかった

彼女はババロアの話をしようといってきたので
ぼくたちは歩くのをやめて
ババロアの話をすることにした
ババロアはヨーグルトの偽物だとか
ババロアはプリンのできる前のもので
プリンができる前まではみんなババロアだったのだけど
プリンが出来てしまったから
ババロアだったところはみんなプリンに取って代わってしまって
ババロアは廃れてしまったんだとか
そんな意味の無いババロアの話を彼女は熱心にした


自由詩 ババロア Copyright よだかいちぞう 2003-04-25 20:53:47
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