お父さんスイッチ
佐野権太

二日遅れのホワイトデーの
白いリボンを髪にのせて
ふわりと回ってみせる君は
大きくなったら
メイドになりたい
という

人様に奉仕したいとは
見あげた心がけだ

解釈は準備しておこう

*

飛行船
と空をさす君の指先は
いつもまっすぐのびていて
気持ちがいい
風をつれて走る君の足元から
草原が生まれる
それを追い越さないように
僕は固いアスファルトを踏む

ときおり確かめる背中
の陽だまり
そういうものに
僕はなりたい

*

(お父さんすいっち、おん!
と君が叫ぶ

まぶたをとじて、呼吸を整える
だいじょうぶ
疲れていても
君を高々と掲げることくらい
できる

行こう
ころころ転がっても
岬のはなまで

*

いつかふたりで
海をみようぜ

肩車するかって聞いたら
小さく髪を揺らして
もう 大人だから って
つん としょっぱい
風にやられて

お父さん?
なんて覗き込むなよ
もう 子供みたいだから
おまえは
海、みてろよ
ずっと、海だけ







自由詩 お父さんスイッチ Copyright 佐野権太 2007-03-23 08:59:26
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家族の肖像