天国のトイレ
吉岡ペペロ
アボジは一階に住んでいる
二階からうえには
あたしとお母さんと妹が住んでいる
あたしと妹の部屋は三階にある
結婚して東京にいる姉の部屋は
ときどきあたしの部屋になっている
一階と二階にトイレがある
お風呂は一階にある
あたしは一階のトイレを
地獄のトイレと呼んでいる
二階のを天国のトイレと呼んでいる
あたしはアボジが嫌いなわけではない
お母さんのほうが困った存在だからだ
一階のよりも二階のほうが
天国に近い、ただそれだけだ
天国のトイレには
学生のころ行った南の島の写真と
学生のころ付き合ったひとが
好きだったシャガールの絵の切り抜きを
小さな額のなかでコラージュしたのを飾っている
いま
天国のトイレであいつがうんこをしている
あたしが寿退社した会社の先輩だった
あいつ
あいつもいまは会社をやめている
あたしは事情があって実家に戻っている