赤 (さん)
容子

午後五時ちょうど
わたしは両足をひらきます

まぶたの向こう側で
色落ちた石壁に描いたあの人の姿が
ため息に吹きさらされて
薄れてゆくのを眺めます

そのたびに
西の空から一斉に
真っ赤な金魚の大群が
こちらへ

スカートの裾をひるがえしにやって来ます

制服のプリーツスカートを
両手でたくし
わたしは両足をひらきます

まぶたの向こう側で
薄れゆく石壁に宿したあの人の欠片が
速まる気息に合わせて
擦れゆくのを感じます

そのたびに
ひき千切れんと食い縛る
真新しい水門が
こちらで

ひらいた両足にくくった鈴を鳴らします

そのたびに
スカートのプリーツは帰路に迷い
綻びかける水門には西の空が映ります

両足のあいだを流れるせせらぎに
金魚はあの人の幻影を餌に赤みを増して
横目でわたしを笑うと
今日も水門に触れることなく
西の空へ戻ってゆきます

まぶたの向こう側で
描いたあの人の姿が
消えてしまう
そのときまでの束の間の戯れです

ほんの十分程度の秘めごとです

そうして
午後五時十分
わたしは両足をもどします

制服のプリーツスカートを
両手で伸ばし
わたしは普段どおり
何事も
なかったかのような
澄まし顔で
帰り道に戻るのです




自由詩 赤 (さん) Copyright 容子 2007-03-07 04:46:45縦
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