NOISE FLOOR
本木はじめ

始めませふ 安易な位置づけ
       
               椎名林檎『真夜中は純潔』









デイストオシオン



うねりゆく夕空きみがフェニックスファンクと名付け殺す思い出



静寂の廃墟で眠りゆくきみのなかにひろがるおんがくの海



ボクシンググローブ燃える赤い夢ならばひつじはとこしえに消ゆ



洪水のなかを睡魔の泳ぎ来て遥かかなたのきみの手拍子






ナウジア



毒を解く緑と書いて毒解緑ああ辻褄の合わない月夜



浮遊する木星きみとデートした秒速永遠だらけの夢中



もう時を止めることなどできなくてくるくるまわるコーヒーカップ



黒い白い黒い白いを繰り返し冬がまわし蹴りをしてくる



みんなからはなれてあるく闇野原遠くに見える灯台のひと






拾遺





永遠に停電している街があり無数の枕屋ばかりが並ぶ



生きるとは拾い続けることなのか十億年もかけて生まれて



永遠に出会い続けよアダムイヴ無数のぼくらを媒介として



白線がどこまでもどこまでも引いてありこれみよがしに過ぎるせいしゅん



深淵の中より立ち現れる雲黒き音楽奏でよ驟雨





    
sometimes



恋人と言う名のきみが恋人と言う名の僕と恋人をする



メタファーの檻に囲まれ僕たちの森は豊かに枯れてゆきます



ホットカフェオレがあなたに恋をする脈絡ひとつ無い冬の朝



前頭葉なのかどうかは知らないがロキソニン飲む頭痛の頭は「づ」?






be natural



カーテンが揺れているから開いている窓の向こうに青空がある



貝殻をひろう少年少女からもらった砂の指輪のもろさ



きみどりがほどけはじめるゆっくりときみは大人へ鳥は彼方へ






はじまり



発車ベル鳴った直後のくちづけに二酸化炭素も弾け飛ぶ駅






遠方放囲



かざす手の指の合間をすりぬけてきみの瞳で輝く死海



パルテノン神殿いづれ倒壊す遠きみらいに生まれる蛍



ここはまだ行き止まりではなくて花しばらくみとれていようじんせい



遠き日の近くで破裂するような着物姿のきみと上海



マチュピチュに赤い灰皿持参して煙草を吸って怒られるきみ






再生



爆撃の後の市街地さまよって不発の夢を探すかのよう



もう一度再生するんだアダムイヴ唯一の僕らを媒介として






浮く/沈む



どこまでも飛べるさ僕ら生活を捨てれば後は桃色の空



ねむること黒い思いを消すために四月の校舎の屋上へゆく



きみがいてはじめて僕が在るような十年ぶりに虹を見た朝



ばらの花の花びら数え沈黙すきみのりょうてのきたないからだ






ことばてきなみくす



固き殻の内を見せ合わない日々のまた会おうぜのおうぜは逢瀬



ようやくは要約なのか墓地そして棺おけまでの道のりのこと?






請いびとたちの歌



アルペジオ響く深夜の室内に殺人事件のようなオレたち



見るだろうオレと出会ったその日暮れおまえの蛹の孵化した跡を



懐かしいひととおまえが思われることが嫌いなオレもまた夢



芸術家きどりのオレが射殺されひろがる赤い鮮血の空



オレたちが昔こひびとだった頃このおんがくもいつしか終はる



手にとればたちまち消える蛍雪おまえの闇の深さに沈む






こうふくな歌



口笛を吹くきみ大草原のなか加速してゆく世界を置いて



ふたりして裸足で走る花畑はなればなれになるまで今を



曇り空ばかりがつづく三月の夢の谷間でまどろむふたり



歩道橋わたるいつかのきみの目が見ていたビルが今は青空



会えない日ばかりが続くもうきみの描いた野原も枯野となって



出したきり仕舞い忘れたアルバムのきみの笑顔に注ぐ月光








短歌 NOISE FLOOR Copyright 本木はじめ 2007-03-07 01:48:13
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