創書日和「火」
虹村 凌

火をみた事が無い彼女の為に
僕は火をつけて回ったのだ
燐寸箱
煙草の箱
捨てられた新聞紙

彼女は大きい火を見ると喜ぶので
どんどん火は大きくなった
ベンチ
ゴミ箱
公衆便所

倉庫
どんどん燃やしては
彼女を喜ばせた
満面の顔で笑う彼女を見るのが嬉しくて
僕はどんどん火をつけた

動かないものに火をつける事に飽きて
今度は動物に火をつけた

野良猫
ホームレス

火をつけられて尚動く彼らに
彼女は盛大な拍手を送った
僕もつられて盛大な拍手を送った
火をつける事がこんなに楽しいなんて
僕は今まで知らなかった
だって
学校じゃ禁止されていたんだもの

そんな風に火をつけていたら
公園は火に包まれてしまった
もう燃やすものが無い

僕はお巡りさんに捕まった
彼女を喜ばせる為の燐寸も
彼女を笑わせる為のオイルも
全部取り上げられてしまった
これじゃあ彼女を喜ばせられない
僕がそういうと
お巡りさんは僕を殴り飛ばした

生意気な小僧だ
こんなに火を放っておいて
女の所為にするとは何事だ

僕は悲しくなって彼女の方を見やると
彼女は手を叩いて笑っていた

綺麗な火が見えるの
こんな火なんかよりもっと綺麗よ
紫色の変わった色ね
もっと私に見せて頂戴

彼女がこう言うので
僕はお廻りさんに殴られ続けた
すると彼女は退屈しはし始める
これはいけないと思った僕は
お巡りさんの股間を思い切り蹴り飛ばす

この野郎
公務執行妨害だ
えぇい腹の立つ
お前なんぞ死んでしまえ

そう言って銃を取り出すお巡りさん
彼女は再び大喜びだ
僕はしっかりと銃口を見据えて
一番綺麗になるように頭の角度を合わせた

ぱん

乾いた音がして
真っ赤な花火が飛び散ると
彼女はさも満足げに微笑んでいるのが見えた


自由詩 創書日和「火」 Copyright 虹村 凌 2007-02-28 15:11:10
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
創書日和、過去。