金魚ランドセル
容子

 赤いランドセルは女の子の特権よ
 真っ赤な真っ赤なランドセル
 その中に
 金魚の群れを飼っている
 小学校三年生の夏

 真っ赤なランドセルをせおって歩く姿に
 隣の家のえみりさんを感じるの
 と、三才上のお姉ちゃんが言っていた
 小学校六年生の彼女は
 月に一度
 背中のランドセルから逃げだした
 真っ赤な金魚を産み落とすの
 それはね
 小学校三年生のわたしには
 まだ分からない世界なんだって

 黒いランドセルに憧れたのはあの頃
 幼なじみの太郎くん
 と、木登り競争で一度も勝てなかった日々
 小学校一年生のわたしは
 太郎くんの
 背中に背負った黒色ランドセルが
 とってもすてきな宝物の
 ようなね
 それくらい高価なものに思えたの
 でもわたしには背負えなかったわ

 わたしは
 金魚を飼っているからね
 金魚を増やしていくからね

 赤いランドセルは女の子の特権よ
 真っ赤な金魚のランドセル
 その中で
 金魚は増える泳ぎゆく
 小学校3年生の夏

 今日の月は赤いわね
 背中のランドセルよりも
 今日の月は赤いわね
 そろそろ金魚に餌をあげようか

 それは
 お姉ちゃんに教わった
 とても
 簡単でおいしい餌

 隣りの席の足の早い彼のことを想うの
 金魚は勢いよく
 それを食べると赤さが増すの
 ランドセルの中で泳ぎ群れ
 金魚は今日も赤く熟る
 小学校3年生の夏


自由詩 金魚ランドセル Copyright 容子 2004-04-17 17:11:29
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