知っているか
水在らあらあ





わかんなくていいよ
そういってウミスズメは
うなだれて水に入った
ここの漁師たちは野蛮だから
ライフルを持って船に乗る
水面下を飛ぶように泳ぐ君を散弾で撃って
ああ そうさ 殺すのさ
そうして船の上で
ぎらぎらした日を浴びながら
君の肉を喰らう
君はそんなに可愛くて透き通る波を突き抜けて純粋だから
おいしくもないのに 食べたって

血しぶきを上げて朝日が立ち上がってくる 
それは今日っていう日の泣き叫ぶ誕生の瞬間だ
血ははりついて 潮風ですぐにかさぶたになる
この島で 俺達は脅えて目覚めて
かさぶたと 雑草と 涙のあとでかさかさで
少し 恥ずかしくて みんなそっぽ向いて
海の水にアルコールばっかりの小便をする
高台に帆を張って眠った年寄りの船乗りたちは
そんな俺たちを微笑んでみている
いつか自分もそんな風に
若さってものがくだらなく だらしなく やさしく感じられるのだろうか

風がない
漕がなくちゃいけない
漕がないと
家にも帰れない
でもこの広い世の中には
漕いだって
家も何もない人々もいるんだぜ
なあ
そんな人々が今日もジブラルタルで溺れ死んだよ
ヨーロッパに
何を求めてくるんだろうね
知っているか
アルバトロス

今日は海は荒れて
めちゃくちゃな宿酔の上にこの波だ
こうして吐くような悲しさに襲われて
それで帰り着くのがおまえのいる家であってはいけない
家なんてなければいい
屋根も シャワーも 冷蔵庫のセロリも 鴨肉も
にんにくも ジャガイモも 母親がくれた 醤油も みりんも

ああ お母さん 子供のときのように
整理箱を作って 牛乳パックで たくさんの引き出しがあって
今だってそこにしまうものは大して変わってないけど
変わってないのねって 笑って

まだ漕ぐのか
風はどこだ
腕だけが太くなるぜ
それでそこに俺の弱っちい心も宿ればいい
そうしてこの世界はいつかのように大きな遊園地になって
みんな観覧車に乗ってにこにこ挨拶して
ジェットコースターで地獄に落ちて天国に駆け上がって
メリーゴーラウンドでずっと夢を見て

そんなことを思いもつかない人々が
今日もジブラルタルで溺れ死んだよ
そういう人たち一人ひとりは
きっと俺なんかよりずっと日に焼けた肌で
限りなく透明に近い夢を見ていたはずなのに
溺れ死んだよ
今日も
明日も

知っているか
アルバトロス
俺は知らない
そんなに透明なことを知らないで生きてゆくのが
本当に嫌だけど

ウミスズメのように水をくぐって
飛ぶように水をくぐって
昼寝して
少しうなだれて
散弾をくぐって
生きてゆく
生きてゆくしか
ないんだ








自由詩 知っているか Copyright 水在らあらあ 2007-02-24 11:23:57
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