長いお別れ
黒田人柱

珈琲店と書かれた看板の奥で少女が泣いているわ
あれ何て季節
グラデーションが眩しくて夕闇が澱んでいて
あれ何て季節

店に入ろうか
そうしたいのは山々だけど
僕らには
金がない

時間も余り無いからと
駅のホームで切符を握り締めていた
もう既に、頭の中では


少女、あの少女
名前も知らないけれど
きっと可愛い名前だと思うんだ
銀のトレイがぎらぎらと音を反射させる

ラジオとテレフォンが煙草の煙にやられて
黄色がかっている
窓から覗いた風景は円形だった


ほんの数秒か、数分か
確かに時間は止まっていた
僕らの歩みと共に進んだのに
もうそれも叶わない


恋愛や自殺や遊園地のように
過ぎ去ってゆくことばかりの人生だから
長いお別れをしよう
さようなら



自由詩 長いお別れ Copyright 黒田人柱 2007-02-18 10:29:44縦
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