桃緑
千月 話子


 春子はミントの葉を散らし
 踏みしめている 半睡眠で

如月 彼女の足の裏は
いつも薄緑に染まり
徐々に褪せていく
まるで季節を旅しているようだと
裸足のかかとをくぅと縮め
まどろみ笑う口元に
波打つ髪が優しく揺れる


 春子は夜 丸い月の銀盆に
 丸い果物を重ねて食べる

桃の月 柑橘の月 葡萄の月
西瓜の月・・・は重すぎて
手から滑り落ち
悲しむ春子の手に残る
赤い果肉を
夜啼き鳥(ナイチンゲール)は
慰め ついばみ
「明日はライチをお食べよ
明日はライチーをお食べよ」と
西洋の名を持つ小鳥は
東洋の歌を歌うように高音で鳴いている
丸い月を鳥籠にして


 春子は晴れた日に 雨の降る
 不思議な時間に散歩する

と 太陽が真正面を照らす頃
いつも 道は右に折れ
いつも 濡れている白猫に
いつも 小声でにゃあと鳴く
白い背に光りは当たり 屈折
今日は全ての色が揃って見えるから
「虹 と呼んでもよろしいかしら?」と
首を傾げて尋ねてみますと
大きな瞳に虹を映し 猫は
跳ねるように寄り添い歩く
 傘の雫を避けてお入り


廃線になる線路に真昼のかげろう
行ったり来たりしている
青い電車 赤い電車
こっち側で 満開に梅は咲き
人々の最後の賑わい
あっち側で 満開の桜は咲き乱れ
声だけが風に乗り
草野原の錆びた線路をゆっくり走る

春子と虹は 弥生
桃緑の電車に乗って
北へ北へと飛んで行く
波のように長い髪を
さらさら揺らして

 


自由詩 桃緑 Copyright 千月 話子 2007-02-15 23:08:32
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