武士のつかい
佐野権太

朝起きると武士だった
(拙者、もうしばらく眠るでござる
と、布団を被ったが
あっさり古女房に引き剥がされた
長葱をあがなってこいという
女房殿はいつからあんなに強くなったのだろう

*

八百屋には、あいにく長葱がなかった
大人買いだろうか
しばらく思案して、代わりに
ふくふくと太った大根を手に取った
やれやれと店先の販売機に小銭を落として
『珈琲』を押すと
ガタゴトとあきれ顔の『お袋』が出てきた
(長葱を頼まれて
(大根を抱えて帰る阿呆がどこにいるか
と、こっぴどく叱られた
あたたかい方を押すべきだった

*

懐で水戸黄門のテーマが鳴った
案の定、女房殿からだ
(なに、ナプキン?
(拙者がか?
(むっ・・・わかった
(羽根付きか?
(羽根付きは高いのか、そうか・・・だが・・・ん?
斬られていた

*

見あげれば青く高い空
渡り鳥だろうか
群れが南へ飛んでゆく
やはり羽根は
ないより、あった方がよかろう
意を決して
大音声を響かせる
(羽根付きを所望!

八百屋の主人が口を空けている
月代さかやきに秋が涼しい


自由詩 武士のつかい Copyright 佐野権太 2007-02-06 09:17:19縦
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