記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」
虹村 凌

第九ニューロン「遠くまで」



侑子とは疎遠になった。

相変わらず、舞子とはメールをしたり電話をしたり。
一度、ゆかりの家に行った事を覚えている。
その時は、ただ彼女の家に映画を見に行ったのだが、
結局は舞子を呼んだら面白い、と言う事になり、呼んだのだった。
サムライフィクションを見たのを覚えているが、
何時に彼女が来たのかを俺は全く覚えていない。

ゆかりと少しだけイチャついて、舞子を呼んで、軽い晩御飯を食べて。
舞子の箸の使い方がオカシイと、ゆかりと一緒になって指摘したら、
「あなた達は、背丈が同じくらいだから、まるで夫婦ね」なんて言ったり、
「そうやってソファに座ってるの見ると、広告みたいだわ」なんて言ったりした。

ここからは、非常にまとまりが無い。
記憶している事を箇条書きのように記していくよ。

・ゆかりの家の屋上で、花火をやった。
ネズミ花火に点火して、きゃっきゃ言いながら3人で遊んでた。

・ゆかりは父と電話していた。実家に帰る帰らない、で電話していた。
彼女は父親を好いてはいないようだった。

・また、ゆかりとイチャイチャした。
キスをした。「下手でごめんね」と言っていた。矯正器具が舌先に冷たくあたった。

・「何で押し倒そうとしないの?」とゆかりはいった。
「別にそういう事をしにきた訳じゃない」と言う俺を、ゆかりも舞子も笑った。
俺は3人の中では一番純情だった。そんな気がする。勘違いかも知れない。
ゆかりの胸に触った。小さかった。
ゆかりは恥ずかしそうに、「小さいから駄目」と言った。
「二回目は無いわ」とも言った。俺は手を引いた。

・俺のモノで二人が遊んでいた。別に口でしたり、とかじゃない。
俺がMなので、二人が遊んでいただけだった。
ゆかりが「お風呂場で、最後までする?」と言った。俺は丁寧に断った。
矢張り、俺は純情だったのだと思う。勘違いだろうか。

・二人と手を繋いで、少しだけ眠った。
幸せだった記憶が幽かに残っている。

翌朝、ジョナサンで軽い食事を済ませた後、
ゆかりと舞子と別れ、俺はアメリカ大使館に向かった。ビザの申請の為だった。
911のテロ以降、4年と言う長期のビザ申請が出来る最後のラインだったはずだ。
代理店を通して手続きをしたため、1ヶ月掛からずに、ビザは下りた。
大使館を出ると、テレビクルーに突撃取材を受けた。
インタビュアーの人の香水が異様なまでにキツく、気持ち悪くなった。
適当に応えて、その場を逃れた。
代理店を通しせばビザの申請は早く出来る、そんな答えを彼等は求めていなかった。
ただ、彼等が求めていたのは、
「ビザの申請がしにくくなった」
「時間がかかる」と言う事を言わせたかったのだろう。
相手が悪く、俺だったために、思ったような回答は得られなかったのだろう。

俺が実家に戻ってから、少し動きがあった。
彼女の大学に通う男が、舞子と寝たのだ。
いや、それは知っていた。前に一度寝たのは聞いていた。
だが、その時に電話で知ったのは、一回だけじゃないという事だった。
俺は裏切られた、と思った。嘘を吐かれた、と叫んだ。
しばらく電話に出なかった。悔しかった。
けれど、彼女がしたことは、俺が侑子にした事と同じだと気付いた。
俺は、舞子が好きだった。
遭いたかった。

あやふやなまま。

俺はそんな状態のまま、アメリカに向かった。
初めてアメリカに向かう日、俺は最後に舞子と会った。
彼女と少しだけ話した。
彼女は、彼女が使っている香水を、俺の辞書に吹きかけた。
今はもう、そんな匂いは微塵もしないけれど、その匂いはしばらく離れなかった。
いつか、彼女は俺のベッドにもそうしたことがあった。
そんな事を、これを書きながら思い出した。
匂いに、敏感な人間達だった。
俺は舞子の匂いがしたと思っては、誰も居ない雑踏で辺りを見回した。
俺が吸っていた煙草の匂いに、舞子は反応したんだろうか。
少なくとも、一瞬でもそんな事があったに違いない。

飛行機の中で、少しだけ泣いて、眠った。
彼女が俺にくれた煎餅の味を、今はもう覚えていない。


散文(批評随筆小説等) 記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」 Copyright 虹村 凌 2007-02-06 04:05:04
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