「軽犯罪日記」 シンナーの練習
馬野ミキ

ぼくたちは静かにシンナーを吸引する

ボンドやパテやガソリンはやらない

誤ってガソリンを飲んだロッテは恋人のアパートで死んだ

その恋人の名前をぼくたちは知らない

ぼくたちは常に純度の高いものをうまく仕入れた

夏休みを有効に使い、市内の建築現場の地図を製作したのだ

ぼくたちはいい具合に知識をなくしつつあった

倉庫街から丁度死角になる位置にあるテトラポットの上で

ダンボールを敷物にして楽な姿勢で遠くを見つめた

気が遠くなったりしたが

しだいにどこが近くでどこが遠いのかも忘れるようになる

翌日のぼくたちは街でそろって異臭を撒き散らし

ぼくたちはポケットに手をつっこんで歩く

太陽は赤でも黄でもなくどちらかと言えば白で

見つめていると少し下に下がる

ぼくたちはそれを太陽がうつむく、と表現する

歯みがきをしても歯がぬるぬるとするので

気持ちの悪い時には何かしら食べたり

大量のスポーツドリンクを飲んだ

ぼくたちは警官やガードマンといった連中から滅法嫌われていたので

よく走った


自由詩 「軽犯罪日記」 シンナーの練習 Copyright 馬野ミキ 2007-02-05 22:39:30
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