真夜中ビスケット
虹村 凌

ポケットの中で粉々に砕け散ったビスケットを
乾燥した指で摘んで口に運んだ
解けたチョコチップが指に絡んで
煙草のフィルターまでベトベトになった

お前がくれたチョコチップビスケット
これで最後の一枚だよ
あとはポケットの中で粉々になって
煙草の葉っぱカスと一緒に捨てられるだけ

冷たい缶珈琲で一気に流し込んで
さぁ
お前の事なんぞすっかり忘れよう
新しい物語を探しに街に出よう
寝苦しい夜
だから
だから街に出かけよう
一番上等な服を着て
磨きたての靴を履いて
大好きな歌を口ずさんで

「そいつが輝く時はいつも
俺を不安にさせるんだ」

手軽な物語も
こんな真夜中じゃ全部売り切れ
コンビニだって
それを乗せたトラックを
ずっとずっと待ってるらしい
公園にも
駅前にも
こんな夜中じゃ
手軽な物語は何処にも無い

まだ帰りたくない
部屋に戻れば
暗闇の中
まだあれが光ってるに決まってる

「それは自由気ままに輝いてる
俺自身が無くして二度と見つけられない
まるでそんな俺みたいに輝いていて」

もう俺を照らし出さないでくれ
俺を照らして傷つけないでくれ
その虹色の光で
もうこれ以上は耐えられないから
傷つけて困らせないでくれ
その光が
その虹色の輝きが
何時も俺を



なぁ
お前の部屋に
そいつが輝く事はあるかい?
真夜中の
ふと目が覚めた時に
目の前で
そいつが輝く事はあるかい?
なぁ
今でも俺の部屋では
そいつが光っているんだ
寝苦しい真夜中に
お前の夢から目覚めた
暑くて寝苦しい真夜中に
そいつは輝いているんだ
なぁ
お前の部屋に
そいつが輝く事はあるかい?

今でも俺は
ポケットの中のチョコチップを
煙草の葉っぱカスと一緒に捨てられずに
その輝きを眺めているんだ


自由詩 真夜中ビスケット Copyright 虹村 凌 2007-02-05 07:30:46
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