Yちゃんが道を渡ろうとしている
片野晃司

音楽室の
Yちゃんの真新しい椅子の後ろに
Yちゃんの埃を被った椅子
その後ろに
Yちゃんの足が折れた椅子
その後ろに
ばらばらになった
Yちゃんの椅子
その向こうは
床が崩れて
そこへ
夕陽が落ちようとしている
ゆっくりと菱形に捩れながら
錆び朽ちた軋み声をあげている
その窓枠の隙間から
はつなつの
Yちゃんの太腿が見える
その太腿が
草叢の中で立ち枯れた頃
Yちゃんの子孫ら あるいは
生まれなかったわたしたちが
ようやく幾度目かの死を語り始めようとする
音楽室の
Yちゃんの足が折れた椅子
その後ろの
Yちゃんのばらばらになった椅子
その向こう
夕陽に追われて
Yちゃんが道を渡ろうとしている




hotel no14 2005/12初出


自由詩 Yちゃんが道を渡ろうとしている Copyright 片野晃司 2007-01-27 22:31:06
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