あかるい岸辺
佐々宝砂

こんなにもあかるい岸辺で
こんなにも頭がずきずきするのは
いったいどうしてなのでしょう
山々に溶け残る雪は
(誰にも踏みこめないところにあるので)
あくまでも白く輝いて
その鋭い白さは
幅広のナイフのように私の目を裂きます
雪のうえには
土に還りそこねた去年の落葉が見慣れぬ文字を描き
私はそれを読みとろうとして
辞書を持っていないことに気づきます

通り過ぎる人の顔にはモザイクがかかっているし
太陽の光は堅固な城塞みたいにわたしをとりかこむのです
私はこのあかるい岸辺に立って
きらきらする雪と川を見ています
夏が来ればこの凍りついた淵も
深い青緑の水をたたえて
私を迎え入れてくれることでしょう
でも今はこんなに真っ白な雪の朝
私は頭痛に耐えながら
目をしばたたくばかりです

岸辺には落葉松の林があって
目をむき髪をふり乱した女たちと
血まみれの赤んぼたちが
鈴なりになっています
ときおり風が吹くと
女と赤んぼは風に乗って
あっちの岸へこっちの岸へ飛ばされてゆきます

自分を見失ってしまうくらいに
大きな声で叫んだら
あっちの岸に届くでしょうか

昨日の夜も
やっぱりこの岸はあかるかったのです
満月と林が
雪のうえに灰色の縞目をつくっていました
月まで登る梯子はありませんでした
川を渡る橋もありませんでした
私を包むやさしい椅子もありませんでした
それで私は
一晩中 この岸辺に立ちつくしていたのです


自由詩 あかるい岸辺 Copyright 佐々宝砂 2007-01-22 06:09:26
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