焼餅と誕生日。
もののあはれ

珍しく田舎から餅が届いたので。
食欲は無かったが食べないのも申し訳ないから。
焼餅にでもしようと箱から三つばかし取り出し。
オーブントースターに並べて焼いたみた。
すると餅の入ったダンボール箱に紙切れが入っていた。
それは僕の誕生日を祝う短い手紙だった。
僕さえ忘れていた今日のこの日を
親は忘れずに祝ってくれた。
餅を搗いている年老いた二人の姿を想像すると。
僕はなんともいえない気持ちになり。
焼き上がった熱い餅をグイグイと口の中に押し込んだ。
押し込めば押し込むほどになんだか胸が苦しくなった。
僕は喉を詰まらせたのかほとんど嗚咽なのか。
よく分らないへんてこな音を鼻から発し。
自分を誤魔化すように更に焼餅を口に押し込んだ。
それはあまりに熱くて苦しくて可笑しかったので。
ついでに僕は妙に眠くなる薬の入った瓶を
力いっぱいゴミ箱の中に叩き込み。
コップに入れてあった水道水でゴクゴクと。
焼餅と鼻水とそれから僕の心の闇を
一気にゴクリと腹の中に流し込んだ。
それらはあまりに気持ちよく流れていったので。
よくは覚えてなんかいない筈なのに。
なんだかこの世に生を受けた瞬間と。
なんとも同じみたいな気持ちになった。
紛れも無く今日は僕の誕生日だった。


自由詩 焼餅と誕生日。 Copyright もののあはれ 2007-01-19 19:12:53縦
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