旅の終わりに
ダーザイン

夜が更けていきますね
送電線を伝わって
ふらりふらりと麦畑を行けば
ほら
電線が囁いている
星屑をまとった天使たちが
口笛を吹きながら散歩しているんだ

軍用ブルドーザーに破壊されたガザ市街
廃墟の剥き出しの鉄骨と塵埃の向こうに
銀の海が音もなく寄せる星野原
誰もいない星明りの廃園で
狙撃手の眼を盗みながら
ハッカ煙草を一本くゆらせている間にも
夜は
明日の方へと転がっていった

この夜が明けたなら多分
この夜が明けたならきっと
ゆるゆると優しい光の降る金色の草原で
僕らは笑っているのだろうか

季節は巡り
夜風がめっきり冷たくなりました
白鳥座のバス停は
巨大な十字架のように直立し
旅の季節も終わりのようです

かつて小さな街灯の明るみの中で
「かんたんなことよ
スイッチを切るだけ
私はコンピュータだから
寂しくないよ」と
語った少女がおりました
地球から遠く離れて 
星空に取り残された 僕の恋人 
セロファンの幻灯をそっと灯すと
ピンクのワンピースの少女が現れるのです
東の果ての遠い国から打ち上げられた
小惑星探査衛星のコンピュータのお話
そんなふうに 終える旅もあっていい

灰色の巨大な分離壁へ至る荒れ野に
傾いた満月の影が射す
ダイナマイトを腹にくくりつけた少年が
麻の上着をぼろぼろにしながら
鉄条網を潜り抜け
ほの暗い水晶の森の
微かな明るみの中を進む
ひとつの青い影となって
兵士の立つ関門所の横を
青い猫がこっそりとすり抜ける
彼の恋人は
アメリカが支給したアパッチヘリのミサイルで
真っ赤な石榴のようにはじけたのだ

少年よ 君は生きて
彼女がここにいたことを
憶えていてあげなければいけない

雲の割れ間から
幾筋もの冷たい光が野辺に射す
桜草の花束が
草原のうねりの向こうに
松明のように灯っている
パレスチナの分離壁の中でも
両手をかざす子供達の
炎上する影は長くのびて
ピンクのワンピースの少女の姿が
縄跳びの輪をくぐる子らの中に
見えたような気がして
地平に開いた赤い月のトンネルは
もう会うことのできない
恋人の胸に灯る柘榴石のブローチ

この夜が 明けることがあるのなら
夜よ
更けていけよ


自由詩 旅の終わりに Copyright ダーザイン 2007-01-17 22:35:29縦
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