路傍で
ダーザイン

白い海触崖の上
見渡す限りさえぎるもののない
広大な草原の真中にいて
両手を広げ
はたはたと
羽ばたく鳥のまねをしてみたり
帆のように風をはらみ
さらに白い空の彼方へと
消え入りたいとでも思ったのか

足元を見下ろせば
断崖の下に小さく打ち寄せる波頭
海はほの暗い光に満ち それは
命の影を秘めているかのように光り
岬の伝承によると
海にのまれ 帰らぬ人となった若者を慕う
少女が流した涙のレース飾り

銀色に光る風力発電機の塔が
誰もいない海岸丘陵に幾本も連なり
可聴域の外で微かにざわめく
重奏する声

アナタハ ソコニイマスカ

岬へ向かう歩道に沿って咲きほころぶ
黄金色のきんぽうげは
光の子らの笑い声
薄桃色の風露草は
夏服の少女が風の中で歌うアリア
花から花へゆらぐ
蝶の飛跡は時をたわめ
野に影もないところばかり
めぐる旅が続いた日々がありました

今時分は多分
もう夏の終わりの花
蝦夷かわらなでしこが
桜色の線香花火のように
咲き乱れているでしょう

孤独なバイク乗りの
メットのシールドには
いつもかすかに
幻の対者が映っており
その消え入りそうな姿が
海岸草原の中をどこまでもうねり延びる
一本道の傍らに
陽炎のように見え隠れしているのです

だから時折
旅人は路肩に停車する
たどってきた道と
眼前に延び広がる無辺際の丘また丘
ただ淡い空の青があり
少し暗い海があり
青と青が触れ合うところ
帆を張る影も無く
一人路傍の人となり
煙草をくゆらせていたりするのには
そんな訳があったりするのです
風が草原を渡っていく
低く高く
流れて行くものの透明な存在

バイク乗りの髪毛も
草原と共にそよいでいるでしょう
降り注ぐ光の中で

いつの日にか再び
身をかがめる者のうなじに光る
透け色のうぶげを
青い風が梳いて行きますように

寂しい旅の途上にて


自由詩 路傍で Copyright ダーザイン 2007-01-17 22:32:43縦
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