ファミリーレストラン
佐野権太

えのぐのあじがする
と、遠ざけられた皿には
白いドレッシングのかかった
シーザーサラダが
盛られたかたちのままだ
野菜も食べないと大きくなれません
と云われて
娘はふくれている


絵の具なんて食べたことないくせに
と、君が溜め息をつくから
(いつ?
と、耳元に問えば
娘は瞳を広げて
(いっぱいのきのう
と、悪戯っぽく笑う


横からホークを伸ばして
湿った緑を口にしながら
確かにそんな気もする
と、僕が伝えれば
そういうことではないと
ついでに叱られてしまった
ふたりして、しょんぼり
大きくなんかならなくても
いいのに


確かに君の云うことは正しいのだが
娘も正しいと思う
ちいさな正しいは
こうして、いつも
おおきな正しいに飲み込まれてしまう
正しいという言葉は
少し
かなしい味がする


娘は
ようやく運ばれてきたプリンに
早くも口のまわりを汚している
猛禽類もうきんるいの描く航跡の正確さで巡回する君が
また、狙いをつけている

僕は
その開きかけた大きなくちばし
丸めたサラダを放り込んでやろうと
タイミングをはかって
揺れている


自由詩 ファミリーレストラン Copyright 佐野権太 2007-01-15 13:03:07
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家族の肖像