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2012 04/10 10:51[431]
ふるる

『華氏451度』レイ・ブラッドベリ

読みました。書物を禁じた世界の住人はバカという単純な設定に多少古さはあるけど、事件が次々に起こり、読後は色々考えさせられ、なおかつ詩的でもある、優れた小説です。
本を読んだり所有したりするのが罪である社会のお話。
余計な事を考えない=幸福という社会では、ファイヤーマンは消防士ではなく、本を燃やす役人。人々は娯楽に興じ、TVやラジオに釘付け、外の世界には関心がなく、感情も、記憶力もあまりない。夫婦の出会いも忘れちゃう。だからといってブラッドベリが書物を読むことを奨励したり、アカデミックな読書家を美化しているかというと、そうでもなく、確かに本はいいと思うけど、無理強いしてもしょうがない、でも必要となった時に読めるようにしておいたほうがいい、という考えみたい。本のよさというより、思想をそれと知られずに統一しがちなTVの怖さってものを言いたかったらしい。働きもせず、他の国から搾取するだけして、ものを考えなくなった人々が結局はどういう道をたどるのか、残念な結末が書いてあるけど、人間は、「どんなにがっかりしたところで、どんなにうんざりしたにしても、もう一度、最初からやりなおすことを、あきらめるような者はおらんのだ」「わしたちには、いまやったことの愚劣さがわかるのだ」とも書いています。本を白い鳥に喩え、火を美しい花に喩えるSF界の吟遊詩人ブラッドベリの手腕はさすが。しかも、読書に目覚めた消防士の主人公が機械シェパードに追われるあたりはしっかりエンターテイメント。
sage