回文は知性の不可逆を駆逐する/竜門勇気
 
以下の方がこの文書を「良い」と認めました。
- 生田 稔 
 
作者より:
笑う旦那はその時以来、見ることは無くなった。
翌日旦那は近所の私鉄内で痴漢となり、そして示談金を支払い事なきを得たのだ。
旦那は最後まで免罪であることを主張したが駄目だった。
口さが無い主婦たちの間では既に隠れた変質者にしたてあげられ、常に冷たい視線と、時によっては直接的な言葉によって今やこの町一番の危険人物となっていた。
毎日ふらふらと何をするでもなくうろつき、誰かを見つけると己の免罪をとなえた。
僕自身もその奇妙さに敬遠し始めた頃、遠くの病院に行ってしまった。
最後に僕が聞いた言葉は
「ぼくはね!あんなきれいなおんなのこがさあ!つかってない穴をもったいないとおもってさあ!」
免罪じゃなかったんだ。いつも見ている夕暮れが昨日より酷く遠い山に落ちていくように見えた。
ぼくは母さんに聞いたことを話して眠り、旦那は十年たった今も帰ってこない。

Home
コメント更新ログ