夕暮れだろうか、明け方だろうか。
深い森の中に薄紫色の光が差している。
薄い霧のかかるどこか懐かしい空間で
いくつもの死と生命の誕生とが
上品な絹のように織り交ぜになっている。
遠くか ....
夫と言い合いになった日の深夜
冷蔵庫の前に這いつくばって
冷たい床に雑巾で輪を描いた
何度も何度も同じ輪郭を辿って
ただ一心不乱にひとつの輪を描いた

怖い顔で子供を見送ってしまった朝は
 ....
パンが食べたい


結婚して子供をもうけたが
三十過ぎに発覚した病が原因で離婚
その後は親もとで闘病生活の女性を担当している
駅前のマクドナルドで聞いた
きみの近況

脳下垂体の異常 ....
五月の風の透明さ
雨上がりの石畳のにおい
雪の朝の静寂
足元をさらう波の清廉さ
出発前夜の胸のざわめき
日曜午後のあきらめにも似た安らかさ
わからなすぎる夜の身もだえ
泳いだ後の満たされ ....
一人前 たまご三個は使いたい
これは食べ盛り男子向きなのだ
たまごを割ってボウルに入れ
醤油をたっぷり入れる
過ぎない程度に良く混ぜる
どんぶり飯に乗せて食べるのだから
しょっぱいくらいが ....
もうずっと遠い昔に
絶望から一歩を踏み出して
歩いてきた僕だから
これ以上裏切られることもないし
やけのやんぱちにもならない

光りあふれ
花咲く道の途切れる先に
真っ暗な口を開け
 ....
ブラックボディの
ノートパソコンを開け
キーボードに伸ばす手
を追い越し
パネルに伸びた指

夜明け前の画面に触れる指先
から泡立ち溢れる渦 
胸の傷口が割れて
大輪の洋蘭

隠 ....
薔薇よ
かくも烈しい
おまえの怒りに
一瞬にして触れてしまった
不意をつかれてたじろぐ私の指先の
見えない程小さな
けれど思いのほか深い傷から
みるみる膨れ上がって
指を伝って流れた色 ....
破水した光の{ルビ枝垂=しなだ}れ
終わらない夏の囚われ
わたしは煮え立つ釜のよう
せめぎ合いの果てに溢れ出す

      
しろくのけぞる
      朝顔のうなじ 
       ....
あれは炎だ
理由も道徳も求めない炎だ
まごうかたなき赤い炎だ

怖れを知らぬ
黒い鳥が炎を目指す

命とはそういうものだ

せめて美しい君を覚えていよう
たった一日でしぼんだ朝顔
 ....
蛇口から 
    ゆっくりと
         こぼれて
             おちる
透明で
   ふくよかな
        水の
          躍動よ
掌を
  舟 ....
ことばに変換できない
内に断層の捲れ上がる感覚
{ルビ穿=うが}たれた二つの池が風もないのに細波立つ
千も万もの透明な手足を生やしては
縋るものもない空の空を
死にもの狂いで掻き毟る

 ....
ピアノの純音が美しければ美しいほどその裏には胸の張り裂けるような悲しみがある。
人は誰しも悲しみを背負っている。それは白鳥の慟哭にも似て。
力強くシャウトする歌声の陰には壮絶な人生がある。
 ....
夕暮れても
大地の熱は
冷めやらず

もうすでに
花も穂も枯れ
ただの茎となったすすきは
すとろうとなり
土に埋まる子らは
それを吸って
生き返る

一本であったら
孤独に揺 ....
酸欠状態で喘ぐ金魚が
水面を見上げる角度で仰いだ空は
怖いほど明るい色をしていた

アイスクリームよりも呆気なく
溶けて流れ出したフレーズを
おろおろと掬い上げようとしたら
それは舗 ....
 

何時の頃からか詩が化けている
病身の助けになればと書いてみた
介護詩は気味の悪い怪語詩に
看護詩はよく解らない漢語詩に
理学療法詩はまさかの自爆消防詩だ
イガ栗養蜂詩になりたいと打 ....
平和な殺戮は淡々と行われる
青臭い血の匂い 寡黙な絶叫
ゆるやかな風は心地良く運ぶ

住居を追われ逃げ惑う虫たち
ピンポイントで狙いを定める
鳥たちは戦闘ヘリ

うららかな陽射しの ....
僕の小さな幸福論

TSUTAYAでアランの幸福論を探した もちろんヒルティの幸福論でも良いのだ
幸福な気分になりたかったんだ しばらく味わっていないような気がするんだ

幸福は乾いた日 ....
進め、進め、力強く。
進め、進め、誰が何と言おうとも。
進んで進み尽くして疲れたら休めばいい。
そしてまた、どこまでも突っ走れ!

偉大な先人達の後に続け。
先人達が創り上げた光の道を ....
ある場所で
点、として生じた光りが
わずかな距離を移動して
塵となる
それを一生という

かきあつめたもの
握りしめたもの
すべて消滅してしまう
けれども

細い雨のあとの
植 ....
詩人が詩を書けば

そこには一つの表現が生まれる

余人はそれを見て

そこに何か、美しいものの根拠があるような

錯覚をするが・・・それは間違いだ

詩人が知っているのは僕達に与 ....
木の皮に こもった熱が
少しづつ 雪を溶かし

陽射しが 波紋のように
幹の根元を まるくあゆむ

溶けた雪は水となり 土にしみ込む
しみこめない水は 雪の下をたぱたぱ流れ

水の膜 ....
笑いたくなるかなしい郷愁を
色にして音にして匂いにして
どうにか形にしたいのだ

過去はもう起こせないよ
君はもうここにいないよ
時間を飛び越えてみせなよ

ほら

笑いたくな ....
きれいに見えるのに

ホンマは汚い雨粒。

繋がりそうで

繋がらん雨粒。

優しそうで

冷たい雨粒。

人間と

同じじゃねぇか。

あんたの目には

どう映る?

やけに肩身の狭い雨粒。

やけ ....
真っ赤な林檎の皮をするり剥きますと
白く瑞々しい果肉が微かに息づいて
頬張れば甘く酸っぱく
口いっぱいに広がっては
心地良く渇きをいやしてくれるのです

そのおんなもまた
高い梢に輝いた ....
火がつかねえな 湿ってるのかな

こすれねえな 噛み合ってねえな

あったまんねえな 明るくなんねえな

このまま凍えるのかな


火がつかねえな 湿ってるのかな

こすれね ....
音楽室の
Yちゃんの真新しい椅子の後ろに
Yちゃんの埃を被った椅子
その後ろに
Yちゃんの足が折れた椅子
その後ろに
ばらばらになった
Yちゃんの椅子
その向こうは
床が崩れて
そ ....
駱駝一間さんのおすすめリスト(27)
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