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夜中
叫ぶ蝉
かなしい程
我を嘆かない
例えばサイレン
そうして来る災禍
気付いていないのか
誰に聞かせたい?
誰を救いたい?
七年の歳月に
何を知った
痛むのは
何処だ
 ....
おかあさん
おかあさーん


わたしを産んだ日は
晴れていたと聞きました
満開のサクラ
初夏のような西陽のなかで
汗をかきながら
わたしを産み落としたと。
産院の名前を覚えています ....
かこぉん・・・と靴音
軋む、非常階段


感情を言葉に変えた瞬間から
わたしは
燃えないゴミのように無機質な
存在に変わってしまうのだろう

語りすぎるのは
良くないことだ
見つ ....
せんせいの言いつけ通り
いちにちに三度
色とりどりのくすりを飲んでいます
そのせいか
痩せこけたカラダもふっくりとし
わたしは死ななくなりました


(服用後は車などの運転をし ....
冷たいゆびで
摘まんだ雪は
わずかにかなしい方へと傾斜し
山裾の町は
湖の名前で呼ぶと
青い空の下で黙って
わたしの声を聞いている


凍った坂の途中から
見渡すと
連なる峰の稜 ....
冬が背中のうしろまで来ている
今夜の雨は仄かにぬるく
地上のものの体温をすべて奪う雨ではない
むしろ
ささくれ立った地表を磨き
朝が来る前に
つるりとした球体に変えようとしている
古びた ....
草いきれと湿った地面の匂いがする
(夏だ)

こっそり張られた蜘蛛の巣を
黙って許すことにした
いのち、を
思ったわけではないのだが
今日はこの国や
内包する宇宙にも
とりわけ関心が ....
うすい水の膜を通して
いちにちの過ぎるのを待つ
泳ぐに泳げない、
不器用な蜥蜴の成れの果ては
にんげんに良く似ているらしい


わたしは髪を切る
意地の悪い快感をもって
不運の絡 ....
雨の匂いがする
埃っぽい陽射しの名残りを弔って
闇に隠れ
秘密裏に行われる洗礼は
いつしか
もっと内側まで注がれるはず、
そんなことを
どこか信じている
陰音階の音だけ降らせ
目に見 ....
野良猫を叱るために
名前をつけた
せっかく咲いた花の匂いを
ふるびたさかなの骨で
台無しにしたからね
眠れるはずの夜は
色が薄くて
もう愛想が尽きた
昨日歩いた川べりで
 ....
予報どおりに
夜半から雨
街灯に照らされた水滴の連なりは、
白く
夜の一部をかたちにしてみせる
舗道の片隅ムスカリは
秘密を蓄え
雨に味方する
さわ、わ
さわさわ風に
雨糸揺れて
 ....
むしろ、さくらではなく
今朝の濁った空色が
薄灰色の風となって
じんわり染みこんでくるのを
わたしは待っているようだ

三寒四温の春は寡黙に地を這って
あたらしい芽吹きを迫る
枯れ枝に ....
沈丁花の、
高音域の匂いがした

夜半から降り出した雨に
気づくものはなく
ひたひたと地面に染み
羊水となって桜を産む

  きっと
  そこには寂しい幽霊がいる

咲いてしまっ ....
白梅も微睡む夜明けに
あなたしか呼ばない呼びかたの、
わたしの名前が
幾度も鼓膜を揺さぶる

それは
何処か黄昏色を、
かなしみの予感を引き寄せるようで
嗚咽が止まらず
あなた、との ....
オリオンが
その名前を残して隠れ
朝は針のような空気で
小鳥の声を迎えうつ
わたしは
昨日と今日の境目にいるらしく
まだ影が無い

太古より繰り返す冬の日
あたたかい巣箱から
掴み ....
制作方法について:(イダヅカマコト氏による説明を引用)
http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=2620
2008年10月13日に秩父・ポエトリーカフェ武甲書 ....
細い金属質の陽射しが
容赦なく肩に、腕に、
きりきりと刺さって
サンダルの真下に濃い影が宿る

忘れかけた思い出は
向日葵の未成熟な種子に包まれ
あの夏
深く青かった空は
年 ....
爪先で掻き分ける、
さりり、
砂の感触だけが
現実味を帯びる

ひと足ごとに指を刺す貝の欠片は
痛みとは違う顔をして
薄灰色に溶けている


こころの真ん中が
きりきりと痛んで
 ....
響いているのは雨音
夜が深くなると
それはいつか
遠い海に似てさざめき
わたしは
波に洗われたひとつの貝を思う

ところどころが欠けた貝殻は
すこしの闇を内包しており
誕生からずっと ....
湿った夜の破片が
蝙蝠となって折れ線を描く
低く、低く

やがて来る、雨と
灰色の朝は
かなしい、という色に似ている


里山の懐に
ちいさく佇むそこ、は
永遠の黄昏に向かい旅立 ....
夕映えを湛えた水面は
紅葉の最後に火照り
林に、ひっそりと隠れて

  雲場池

湧き水の注ぐ豊かは
常に清冽を極め
水鳥の、
その羽根の下にある深さを忘れさせる

黄色や褐色の ....
夏の名残を雨が洗うと
淡い鱗を光らせたさかなが
空を流れ
ひと雨ごとに秋を呟く


九月は
今日も透明を守って
焦燥のようだった熱や
乾いた葉脈を
ゆっくりと
冷ましながら潤ませ ....
真夏の陽炎の向こうから
短い編成の列車はやって来る

そのいっぱいに開かれた窓から
ショートカットの後ろ姿が見える

列車の外から
車両の様子は
ありありと伺えて
制服の脇に置かれた ....
梅雨明けを待てずに
空は青に切り開かれて
ホウセンカの種が飛び散る

新しいサンダルが
小指を破って
滲んだ痛みは懐かしい夏

種の行方を見つめ
きみがいない、
そんなことをふと思 ....
淡いかなしみの曇り空が
堪えきれずになみだを落とすと
紫陽花は青

束の間のひとり、を惜しむわたしは
思わず傘を閉じ
煙る色合いとひとつになりたい 

街中の喧騒は
雨の糸に遮ら ....
今日の風は西から湿り気と
憂鬱の温度を運んで
まだ頑ななガクアジサイの毬に
青、を少しずつ与える

日増しに色濃いぼんぼりを灯して
夏空の予感を語るのは
滲む青と翠と


傘の冷た ....
花曇の四月から
薄灰色の雨が零れる
桃や枝垂れ桜の
薄紅のあいだから
無垢のゆきやなぎは零れ
春雷の轟きに驚いてか
ちいさなゆき、を降らせている

その様子は
あまりに白くて
白、 ....
春の気配に恋、を思えば
こころが羽根を持って
菜の花畑の上を旋回する


拙い愛情が
地球上のすべてだったあの頃に思いを馳せると
おぼろに陽炎は立って
咲き競う花の匂いが
わたしを空 ....
黄色の花は枯草に足元を譲り
冬の陽だまりが
影もつくらず
土に隠した春の気配を
内緒で温めている

霜を忘れた僅かな緑は
十二月の大気に身じろぎもせず
去年のうたや
 ....
浜辺に群がる人波が
ひとしきりうねって退いたあと

待ち兼ねていたように
波音は膨らみ
熱を孕んだ砂の足跡も風に消されて
浜は打ち上げられた藻屑の褥(しとね)になる

風が
湿り始め ....
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