すべてのおすすめ
初めて会う人の顔の真ん中に
或いは胸の真ん中に
おへその辺りに
とにかくその人の中心線に
隙間がないかどうか
確かめる
それは
ある時はボーリングの球くらいの大きさだったり
ある時は米 ....
重たいよ、重たいよ、と稲が鳴ります
生まれるよ、生まれるよ、と栗がもうすぐ妊娠八ヶ月です
うーーん、と心地よい秋風に、晴天が背伸びをします
ぐう、ぐう、と魚の雲を見たわた ....
地球を飼いたい
掌に乗るくらいの
小さな小さな地球があったら
わたしはそれを飼って
今度こそ
大事に大事に育てたい
毎日、綺麗な水をあげて
毎日、空気の綺麗なところで散歩をさせて
熱が ....
夜中に目が覚めて
月明かりの中に夫の寝顔を見つけた
よく見ると額にはチャックがあって
少し迷ったけど
開けてみたら
不思議な記号や色や
匂いや音が
チャックの向こうに収まっていた
....
今年初めての赤トンボを、電線に見つけました。
秋になると、いつの間にか現れる赤トンボは、
どこから来て、どこへ行くのでしょうか。
きっと、調べた人がいると思います。
昆虫が好きで好きで好きな人 ....
未来がまだ懐かしかった頃
人々はそれぞれの
大切なアルバムに
過去や現在や悩みなどと一緒に
未来を貼りつけていた
わたしたちには
過去や現在や悩みや
未来がこなくなっていたから
それら ....
彼女の歌はどこでも聴ける
初めて会ったとき
彼女の肩には音符が乗っていた
飼っているの、と
なんでもないことのように話してくれた
触れると柔らかくて
すぐに歌いだした
それは彼女の唇から ....
暇つぶしに読んでいた夫の漫画本に
ヒミツが挟まっていた
それはちょうど主人公が
携帯電話のメールを確認している場面で
お札と同じくらいの紙切れだった
(本当のお札だったら良かったのにな)
....
喉の奥に良からぬ話題が引っ掛かっている
だから、一昨日くらいから喉が痛い
唾を飲み込もうとしてもうまくいかない
段々と不満が頭の中で熱を持ち始めている
もうすぐ風邪でもひくのだろうか
今、と ....
雨が笑ったら
それは春の始まり
雨が色付いたら
それは夏の始まり
雨が美味しくなったら
それは秋の始まり
雨が意志を持ち始めたら
それは冬の始まり
....
朝昼晩、わたしは地球とキスをする。
靴箱の上にある
木彫りのふくろうは毎晩
わたしの前で目を光らせる
夫は気づかなかった
それはわたしの幻想かもしれないし
夫の現実逃避かもしれない
靴箱の上の定位置に
じっと座って ....
ふくろうを売りに来た人は
中年の腹が出た女だった
彼女のお腹の中には
不満や悲しみや欲望が
脂肪の姿をして蓄まっているに違いない
ふくろうなんて飼えません
と断ると
玄関に置いておく ....
郵便受けに入っていたのは
営業スマイルの葉書と
ネクタイをきちんと締めた葉書
営業スマイルの葉書を開いてみると
べりっという音を立てて
用のないパンフレットを差し出してきた
次から次へ ....
ゴミ箱を作ったので
いらないものを捨てた
だけど、ゴミ箱はまだ満足していなかった
仕方がないので
最近、増えすぎて
持ちきれなくなった不安を捨てた
ゴミ箱は少し満足したようだった
その日 ....
街なかで白い小鳥を配っていた
籠に入ったたくさんの小鳥を
小鳥配りの人が要領良く配っていく
受け取らないつもりでいたのに
いざ目の前に出されると受け取ってしまう
わたしが手に取ると
それは ....
わたしのいつも見ている景色です
ありきたりです
でも、たまに
はっとして
おもわずカメラで収めたくなります
記憶に留めるだけの時もありますが
後に悔いてしまいます
焦ってカメラを構えても ....
雨の中に鯉のぼりがいて
彼らは空を飛ぶことしか知らない
だけど、濡れた体を揺らしてみると
遠い昔を思い出したみたいだった
青い空を飛ぶよりも
うんとなめらかに飛んでいた
***
....
チューリップが咲いている
この間の春の嵐には
少し苦しそうに
揺さぶられても
泣かずに咲いていた
チューリップが咲いている
何もかもを飛ばして
破り取っていった
この間の春の嵐に
....
{引用=いつまでも生きていこうよ}
桜を見に
車椅子を押す
その背中
“来年も見に来よう”
孫から貰った桜の花
手の中に大事にして
見つめながら
“それまで生 ....
雨が笑うのは
春になった証拠
ぱらぱらと
声を出して笑っている
庭で笑い声がする
覗いてみると花の蕾が
くすくすと
声を出して笑っている
小鳥が跳ねている
風の音に合 ....
飲み込んだ寂しさは
夕日の味がした
あまりにもさっぱりしていて
麦茶みたいだ
その素っ気なさに
耐え難い孤独を感じた
夕日の味がした寂しさは
冬の麦茶みたいな
黄昏の色をしていた
....
雲になった少年は
涙を流して
誰に何を
知っていてもらいたいのだろう
詩人になりたかったのは昨日のこと
今は風に流されるだけ
それだけのことに
満たされている
嬉し泣きしかでき ....
そこはもうすでに定位置で
ぬくもりは絶えず
陽だまりが雨の日も
そこにそうして残っているみたい
待ってくれている
それはどれほどの安心を
映し出しているのだろう
ここにいる価値を
少なからず持たせ ....
美味しそうな楽しみがあったので
夫と半分こして食べた
牛乳パンのようにほんのり甘く
甘いものが大好物の夫は
半分になった楽しみを
美味しそうに食べている
その頬が幸せを含んで
ぷくり、と ....
夢の中に落とし物をした日の朝
猫になっていた
仕方がないので
夫を会社に送り出してから
家事は明日にしようと決め
日向ぼっこをして過ごし
夜になったので眠った
明日はせめて、猿になりたい ....
液晶の画面の中では
愛と恋とが
消費されて擦り減って
それでも笑顔を忘れずに
人間の傍にぴたり、と
まるで一人では生きられない
飼い馴らされた犬みたい
マニュアルなんて
何も知 ....
無言の種がいつの間にか芽を出していた
沈黙を守りながら
ときおり呼吸を整えて
少しずつ葉を増やしていく
色濃くなる葉
物語るのは血潮
忙しく変わる私の騒がしさを
彼らの静けさが中 ....
立ち止まったところに
誰かの{ルビ欠片=かけら}が落ちていたので
拾い上げてから交番に届けようとしたら
持ち主らしき人が
不安を抱えたてこちらへ歩いてきたので
「捜し物はこれですか?」
と ....
笑っている
見下ろされて恥ずかしくなる
毎日は
知らないところで進んでいた
取り残されたような寂しさが
独りぼっちみたいで悲しかった
あの、
昼間に薄く青くなる
広大な陰 ....
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