路面に{ルビ陽炎=かげろう}ゆらめく
真夏の正午
長袖の作業着に
ヘルメットをかぶる
眼鏡のおじさんは
汗水たらし
鉄パイプを{ルビ担=かつ}ぐ
路面には
夏空 ....
汗をかいたグラスの前で
ケーキが跡形無く姿を消した
白い皿の上
スプーンとフォークはうつ伏せて
優しく寄り添っている
昨夜の別れ際
握った君の手のぬくもりを
思い出す午 ....
あのときの空は
変わることなく
さえぎる傘は
広げたまま
微笑を交わした頃の
雨の季節はとうに過ぎ
生暖かい風が吹いている
いつか
夏の空の下
見上げた空に虹がかかる ....
たまには こちらから
さかびん かついで
向こうへわたる 死者たちと
のみあかすのだ そのまま
帰ってこなくても 気にするな
改札を くぐれば終わりの恋だけど
振り返らないイジワルなひと
雨とともにぼくたちははげしくなった
ルルルとラララを細いこえで
掻き消せるようにうたいつづけ
うちがわからやってくる爆発の
衝撃にたえられるように
にぎりしめながら
よりそっていようとした ....
・
わたしの住む町にはトンネルがある
トンネルはぽっかり口を開いて
雨の日にも晴れの日にもただ
怠惰そうに横たわっている
トンネルってなんだか産道みたいだ
トンネルを通り抜けるとい ....
一日が終わった、
その後にようやく新しい時間が始まる。
ぼくはよくそういう気分になる。
それがどんな一日でも、早く忘れてしまいたい。
まっしろなページを言葉で埋めたくなる。
書く、その一 ....
目を閉じて
意識を部屋の外に出し
玄関も
マンションのエントランスも抜けて
空へと向かわせる
雲の上に座って
ふわふわな感じを
体で味わい
時に下を見下 ....
すみません。
すみません。
あなたのお持ちになられている。
切っ先鋭いそのナイフ。
どうぞ私に貸して下さいな。
え。どうしてって?
いやー。あのね。
どう ....
夢を見て泣いていた
スリッパが重たくて
空を飛べない夢だった
食後、健康に良いからと
母親がみかんを一つ勧めてくれた
外に出ると
街にサーカスが来る日だったので
誰も淋しくなどなかった
....
ミサイルが発射される音が聞こえる
母が
台所で家計簿をつけているのである
インキは戦車のキャタピラのように
勇ましく前線を進み
赤い数字が攻撃目標みたいに
点々と書き込まれてゆく
エ ....
もしもわたしが秋ならば
都会のビルや街路樹ごしに
優しくあなたに
オレンジ色の陽だまりを届けよう
もしもわたしが空ならば
あなたが見る通勤電車の窓の向こうに
透んだ永遠の水色を用意 ....
午前四時のバックシート
湾岸線を下ってゆく
両親に会話はなくて
タイヤが高架の継ぎ目を踏むたびに
小銭入れがカタカタと音をたてる
曇天の下に都市高速の枝葉が
はるか ....
繰り返される季節の
永遠を想う冬の朝
一面の土が白く広がる大地は
きららきららと光から音を奏で
音は寒さを物語る
繰り返される季節の
瞬間を想う冬の朝
一面の水が白く波立つ湖は
ふ ....
いちご畑 いたずら
三叉フォークの先の林檎
哀しげなスキタイの羊
うずまき腸の迷路を抜けて
秘密にしてた水車小屋
跳ね橋越えたらきっと北極
シロクマのピーチシャーベット
レシ ....
あなた、ずいぶん変な格好をしてるのね
色のついたメガネを
外してよ
私に障らないようにはめた手袋なんて
取ってよ
大丈夫、私壊れないから
....
ジム君流悪魔の辞典「団塊バカ」
団塊世代の代表「小泉政権」
彼に象徴される団塊世代の大人
世の中に対する無関心と無責任さに極まる世代
もっとも恵まれた状況に生まれ育ち
....
穏やかな風が吹く
冬の晴れた日の午後
寒い日のはずなのに
その冷たさはどこにもない
鳥たちはのびやかに飛び回り
土は生きている
めったにないこの日を
人も皆
外に出て心で祝う
....
風呂からあがって
アイスを取り出し
座り込んで一口と
したとき
ふと
思い出した
この
ふと
っていうのは便利な言葉で
きっとどっかにとっかかりはあって
それは
忘れたつもりでい ....
今日の空は少なかった
下ばかりを見ていて
たくさんの石ころは覚えている
今日の空は狭かった
部屋の中にいてばかりで
たくさんの手紙は覚えている
明日の空は
今日の空を見れないけれ ....
君の悲しみよ
涙と流れるな
結晶化せよ
君の疲れよ
汗と滴るな
結晶化せよ
君の痛みさえも
血と噴き出すな
結晶化せよ
しょっぱい思想として
都市と対峙せよ
君は ....
歩幅が違うから。
呼吸が違うから。
思想が違うから。
背丈が違うから。
環境が違うから。
明日が違うから。
視界が違うから。
世界が違うから。
キスが違 ....
事象の地平へと
私は翼を広げて翔び立った
すぐに行き着くかに見えたが
翔べども翔べども
それは見えてこない
続くのは
大いなる地平のみ
翼は上昇気流をつかみ
さらにさらに高みへと舞 ....
どうしよう、ねむれないわ
だってひとりだもん
だってひとりだもん
どうしよう、ねむれないよ
だってあなたがいない
だってあなたがいない
こわいの
ひとりのよるは
....
「ここじゃあ 夢は釣れないか」
神様はそう呟いて
雲の上をのそのそと移動した
人間界に落とした釣り糸には
申し訳ない程度の『希望』が
ぶらさがっている
神様は眠そうな目をこすり ....