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自転車のか細いペダルが
今日は博物館の
涼しい庭にまで届く
始まったばかりの夕暮れの中
まぶたの絵を描き終えて
少年は柔らかな繊維になる
ベジタリアンの君が
冷たい手すりにつかまっている
たった一人、チルドレンの僕は
探偵のようにネクタイを直して
今日も玩具の銃で頭を撃ち抜く
栞が見つからなかったので
小さな紙片を代わりに挟んだ
モノクロの海の挿絵がある頁だった
砂浜に栞が一枚うちあげられていた
巻末には幼い字で父の署名があった
草原に同じ大きさの椅子が並ぶ
たぶん同じ人が座るのだろう
換気扇を回す
他にも回さなければいけないものが
たくさんあるはずなのに
待合室を浮遊する粒子
そして、その沈殿
順番に名が呼ばれ、人は減っていく
女の子が母親と手遊びをしている
ひそひそと西日が射し込む
紙コップを満たす時間
計算機を分解し続ける少年の側で
親戚の人が斜めになってる
今日会いたい人の
苗字が思いつかないのだ
空港は閉鎖された
矩形の朽ちた滑走路に
靴が片方だけ残されている
繰り返される少年たちの空想は
くぐもった口約束となる
草の葉でくすり指を切ったまま
下り坂を駆けおりる
....
神様が横断歩道を渡っていた
スーパーの買い物袋をぶら下げていた
どこい行くんですか、と聞くと
世界中、と答えた
袋から頭を出している長ネギを見て
夕食は寄せ鍋がいいかな、とも思 ....
季節風の匂いを嗅いで
キリンは立っていました
傷を負っていましたが
綺麗事も言わずに
毅然と起立していました
記念碑のように遠くまで見えました
切り立った崖の上
希望という ....
鉛筆で駅舎の絵を描く
沿線にある家の
縁側に弱い陽が差して
映画館の片隅では
液体をこぼした子どもが
延々と泣き続けている
エンドロールが流れ始め
遠近法で描かれた ....
明日と明後日の間に
空き缶が転がってる
ある秋の日
赤い夕日を見に行った兄は
明け方になっても帰ってこない
あれは誰の
アコーディオンだろう
蟻のように
雨にうたれて
....
お坊さんが走る
先生が走る
毎日、たくさんの
言葉を話しているのに
僕らは皮膚の外に
たどり着けない
ふと立ち止まる
地球の匂いがする
壊れない名刺を刷った
どんな道具を使っても
壊せなかった
時々きらきらと光って
きれいなもののように
良い匂いがした
今日はこれをもって
お得意様回り
でも名刺の真ん中にあ ....
ひまわりの振りをして
きみが咲いている
太陽の方を向いて
きれいに咲いている
ぼくは影の振りをして
地面に横たわる
こうしていると何だかとっても
時間の無駄だね ....
熱気球が関東地方の上空を
ゆっくりと飛ぶ
放課後のように
見損ねた夢のように
今日は世界のいたる所
一面の朝でしょう
と、ラジオの人が朗らかに言う
きみは台所で何か千切 ....
山本さんが一人でぽつんと
落ちていた
落ちちゃったの?と聞くと
落ちちゃったよ、と山本さんは笑った
重力には勝てないよ、と笑った
いつか勝てるといいね、と僕も笑った
秋の空は晴 ....
空の重さを支えるように
家という家には屋根がある
その上をきらきらと
小魚の群れが通り過ぎて行く
人は言葉だけで幸せになれるのに
ご飯を食べないと生きていけない
今日の行事は ....
アルミニウムの陰で
子守歌を歌う
眠っている人は
おしゃべりだから
わたしも話せることは
すべて話したくなる
秋雨前線が北上して
他に何もないこの辺りにも
やがて雨が降る ....
犬小屋を作る
犬がいないので
代わりに自分が中に入る
隣の家から拙いピアノが聞こえる
丸くなりうずくまっていると
昔からずっとこうしていた気がしてくる
前を通る人が
中を覗き ....
冷蔵庫の扉が
閉まらなくなった
代わりに
炊飯器の蓋をつけた
閉まるようになった
炊飯器の蓋には
冷蔵庫の扉をつけた
毎日、ご飯の時が
重くて大変だけれど
つらいことばかりじ ....
傍らに咲く向日葵の肩に
歯車、のようなものが落ちて
僕らは片言で話す
君はカタコトと音をたてて
一面の夜みたいに
目を閉じている
カタコト
カタコト
いつかそんな音がする列 ....
電話が鳴る
慌てて冷蔵庫の扉を開ける
受話器が耳に冷たい
+
電話が鳴る
慌てて冷蔵庫の扉を開ける
外はすっかり夏のようだ
+
電話が鳴る
慌てて電話機と冷 ....
遊園地に「回転しない木馬」があった
妻と娘が乗り
僕が写真を撮ることになった
バーにおつかまりください
というアナウンスの後にブザーが鳴り
回転しない木馬が
回転し始めなかっ ....
朝の涼しい職員室で
担任の先生が亡くなっていた
若い女の先生だった
青白い横顔が見えた
海のように
とてもきれいだった
話は変わって
雲には感情がないと思う
感情があったら ....
群れからはぐれたのだろうか
一頭のキリンが
丸の内のオフィス街を歩いていた
時々街路樹の葉を食べながら
それでもなるべく目立たないように
歩道の端の方を歩いていた
郵便ポストを見つ ....
水槽をおよぐ絵本に
住宅街のパンフレット
駐輪場は閉鎖された
ネクタイがまぶしい
夏の最後の午後に
アスファルトは坂道になり
知らない街へと続く
土のことなら、昨日
す ....
浮遊する
言葉の粒子
その隙間に建ち並ぶ
高層の建築物
形づくられた
時間のない怒りは
未整理のまま
風が吹くのを
待ち続けている
空き地に咲く草花を
斥候が手土産に摘 ....
窓に眠る
結晶、
その韻律
雪は記憶
線のない記憶
傷ついた草花は
物陰で葉を休め
官吏は雲に刻む
自らの
不完全な名を
投げたボールの
破片が鈍く錆びて
木々の梢に優しい
アゲハ、あれは
産卵に来た
そしてもう
帰れないだろう
(だから誰かが鳥になる)
(そっと鳥になる)
タイヤの無いバス ....
空の化石を
定規で測る
本棚に
古い指紋
人がいた
人はいた
肩幅の広さに
干されたままの
下着類
飲み物のない
簡単な食事を
フォークで
唇に運ぶ
言葉への失 ....
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