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旅の終わりの夕暮れに 
車窓の外を眺めたら 
名も無き山を横切って 
雲の鳥が飛んでいた 

{ルビ黄金=こがね}色に{ルビ縁取=ふちど}られた翼を広げ 
長い尾を反らし 

心臓の辺 ....
( 青年と初老の母は、
( 寺の小さい庭へと入っていった。 


小石の砂利を敷いた庭に 
細枝と葉影は揺れて 

木作りの小屋に坐る 
首を{ルビ斬=き}られた観音像 
優しい手に ....
早朝 
{ルビ浴衣=ゆかた}のまま民宿の玄関を出ると 
前方に鳥居があった
両脇の墓群の間に敷かれた石畳の道を歩き 
賽銭箱に小銭を投げて手を合わす 

高い木々の葉が茂る境内を抜けると  ....
夜の海に浮かぶ一艘の船 

荒波に揺られ 
横たわる観音菩薩の白い体の上に 
飢えた犬の垂らす 

赤い舌 
休憩室の扉を開くと 
左右の靴のつま先が
{ルビ逆=さか}さに置かれていた 

ほんのささいなことで 
誰かとすれ違ってしまいそうで 

思わず僕は身をかがめ 
左右の靴を手にとって  ....
机の上に三冊の本を並べる。 

一冊目を開くとそこは、
林の中の結核療養所。 
若いふたりは窓辺に佇み、 
夜闇に舞う粉雪をみつめていた。 

二冊目の本を開くとそこは、
森の中のらい ....
その{ルビ女=ひと}とは、ついに重なることはなかった。 
どんなに重なっても、何かが{ルビ逸=はぐ}れていた。 

( 左手の薬指に、指輪が光っていた 

求めるものは、柔らかきぬくもりであ ....
日常の軌道を{ルビ反=そ}れて、
行く当ての無いバスに乗る。 

車窓に薄く映るもう一つの世界の中で、
駅周辺を流れる人々の葬列。 

葬列の流れる行き先に、渦巻いている濁った泥沼。 
 ....
愛は、{ルビ脆=もろ}い砂の{ルビ塊=かたまり} 
この手に掴もうとすれば
指のすき間から零れ落ち
{ルビ一時=ひととき}で姿を消す 

優しい陽射しのこぼれる 
窓辺の下にそっと置かれた ....
そうしていつも、一つの愛は
踏み{ルビ潰=つぶ}された駄菓子のように
粉々に砕けゆくのであった 

そうしていつも、一人の{ルビ女=ひと}は 
林道を吹き過ぎる風のように
{ルビ昨日=かこ ....
私は今、顔を猿のごとく真っ赤にして酔っ払っているのである。 
なぜ酔っ払っているかって?
それには深い、深い、わけがあるのである。 
女に振られたって?
そんなのは日常茶飯事朝飯前であ ....
うたたねをして目覚めると 
一瞬 {ルビ黄金色=こがねいろ}のかぶと虫が
木目の卓上を這っていった 

数日前
夕食を共にした友と 
かぶと虫の話をしていた 

「 かぶと虫を探さなく ....
数日前の夜
ホームページの日記で、
遠い空の下にいる友が恋人と別れ、
自らを罪人として、責めていた。 

( 自らの死を越えて
( 生きる明日への道を見据えていた
( 彼女の瞳は光を宿し ....
長い間
{ルビ棚=たな}に放りこまれたままの 
うす汚れたきりんのぬいぐるみ 

{ルビ行方=ゆくえ}知らずの持ち主に 
忘れられていようとも 
ぬいぐるみのきりちゃんはいつも
放置され ....
「純粋」と「不純」の間で 
へたれた格好をしている私は 
どちらにも届かせようとする 
執着の手足を離せない 

一途に腕を伸ばし開いた手のひらの先に 
「透明なこころ」 
( 私は指一 ....
炎天下の路上に 
{ルビ蝉=せみ}はひっくり返っていた 

近づいて身をかがめると 
巨人のぼくにおどろいて
目覚めた蝉は飛んでった 
僕の頭上の、遥かな空へ 

瀕死の蝉も、飛んだん ....
押し寄せる人波を
私は独り、逆流する。 
東京駅の地下に蒸す夏。 
目の前の{ルビ陽炎=かげろう}を掻き分けて。 

日常の流れに{ルビ弾=はじ}かれて、立ち止まる。 
重い{ルビ荷物=ト ....
人間は汚れている。身も心も。 
人の世のニュースを写すテレビ画面の中で。
私の姿を映す鏡の中で。
全ての日常は、色褪せていた。 

  * 

一人旅の道を歩いていた。 
信濃追分の風 ....
夏の涼しい夕暮れに 
恋の病にうつむく友と 
噴水前の石段に腰掛けていた 

( 左手の薬指に指輪をした
( 女に惚れた友が 
( 気づかぬうちにかけている 
( 魔法の眼鏡は外せない  ....
照りつける夏の陽射しの下 
墓石の群を横切る私の地面に頼りなく揺れる影 
一瞬 頬に見えた{ルビ滴=しずく}は 涙なのか汗なのか 

( {ルビ嘗=かつ}て 一途だった少年の恋は
( 夏の夜 ....
私達は知らない 
戦時中にかけがえの無い妻子や友を残して 
死んで行った兵士の 
爆撃で全身が焼け焦げてしまった少女の 
青空を引き裂く悲鳴を 

( 昔話の地獄絵巻は深い地底に葬られ 
 ....
足元は、崩れている。 
真っ直ぐ歩くことも{ルビ覚束=おぼつか}ず、
肩が揺らいでいる日々。 

( ぼくの脳内には
( 壊れたリモコンが内蔵されている 

胸を張れども三日坊主。 
 ....
 今日は職場の老人ホームの納涼祭であった。通常の業務を終えた
後の18時半に始まるので、正直勤務中は、「今日は一日、長いな
ぁ・・・」と思いながら働くのだが、いざ盆踊りが始まってしまえ
ば、暮れ ....
彼は今迄何度も転んで来た。 
愛に{ルビ躓=つまず}き、夢に躓き、
恋人の前に躓き、友の前に躓き、
鏡に映る、自らの{ルビ滑稽=こっけい}な顔に躓き、

振り返れば、背後に伸びる
長い日 ....
私とあなたの間には 
数十億光年の距離があり 
互いの影はいつまでも交わることなく 
仮想の白い空間を歩き続ける 

( {ルビ孵化=ふか}を知らない孤独の闇に{ルビ包=くる}まれて 
( ....
一 

 僕にとって大事なものをしまっている大きい封筒がある。その封
筒の中に、去年朗読会で年上の詩人・U さんに会った時にもらった
一枚の白黒写真のコピーが入っている。その写真は黒田三郎の ....
小雨の降る夜道を歩いていた。
ガラス張りの美容院の中で
シートに座る客の髪を切る女の 
背中の肌が見える短いTシャツには

「 LOVE 」 

という文字が書かれていた。 
 ....
私とあなたの間には 
いつも一枚の窓があり 
互いは違う顔でありながら 
窓には不思議と似た人の顔が映る 

私とあなたの間には 
いつも一輪の花の幻があり  * 
互いの間にみつめると ....
中央病院の受付は今日も患者で溢れていた 
松葉杖をつく若者 車椅子の老婆 妊婦 マスクをした中年・・・ 

街にはスーツを着て歩く人 
キャンパスの木陰でひとり{ルビ俯=うつむ}いて立つ学生  ....
深夜の地下道 
両脇に並ぶ店のシャッターは全て閉まっていた 

シャッターに描かれた
シルクハットの紳士は大きい瞳でおどけていた 

胸からはみ出しそうな秘密を隠して 
彼は独り歩いた
 ....
石瀬琳々さんの服部 剛さんおすすめリスト(95)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
雲の鳥_- 服部 剛自由詩9*06-9-6
「母子像」- 服部 剛自由詩7*06-9-6
駒ヶ根_- 服部 剛自由詩14*06-9-5
飢犬_- 服部 剛未詩・独白4*06-9-4
- 服部 剛自由詩24*06-8-31
「閉じられた本の中」_- 服部 剛自由詩11*06-8-29
逸れた夜_- 服部 剛未詩・独白8*06-8-29
月夜の野良犬- 服部 剛自由詩6*06-8-29
風の流砂- 服部 剛自由詩7*06-8-27
晩夏_〜蝉の臨終〜_- 服部 剛自由詩12*06-8-27
新連載?はっとりんは今日もゆく〜その一〜- 服部 剛散文(批評 ...12*06-8-27
探しもの_- 服部 剛自由詩16*06-8-22
「空色の手紙」_〜蝉の伝言〜_- 服部 剛自由詩10*06-8-22
棚の中のきりちゃん_- 服部 剛自由詩21*06-8-20
鳥の影絵_- 服部 剛自由詩12*06-8-18
路上の蝉- 服部 剛自由詩14*06-8-14
東京駅_- 服部 剛自由詩11*06-8-13
信濃追分の風- 服部 剛自由詩17*06-8-10
呼声- 服部 剛自由詩20*06-7-30
渇いた夏_- 服部 剛自由詩26*06-7-26
名前の無い街_- 服部 剛自由詩10*06-7-24
潮騒の夜_- 服部 剛自由詩11*06-7-23
盆踊りの夜_- 服部 剛散文(批評 ...10*06-7-23
達磨の道- 服部 剛自由詩9*06-7-20
青い標識- 服部 剛自由詩8*06-7-20
黒田三郎詩集読書記- 服部 剛散文(批評 ...8*06-7-16
「汚れた足」- 服部 剛自由詩21*06-6-14
傘を差す人_- 服部 剛自由詩21*06-6-9
「顔の無い女」_- 服部 剛自由詩6*06-6-5
地下道の音楽_- 服部 剛自由詩11*06-6-4

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