すべてのおすすめ
幸せは一杯の紅茶
飲み込めなかった昨日の苦さに
{ルビ一=ひと}さじの砂糖を溶かす
幸せは真昼の入浴
日常の{ルビ垢=あか}に汚れた{ルビ心身=こころみ}を
泡立つタオルで浄い ....
団地の掲示板に
吊り下げられたままの
忘れ物の手袋
歩道に
転がったままの
棄てられた長靴
{ルビ棚=たな}に放りこまれたまま
ガラスケースの中に座っている
うす汚れた ....
{ルビ濁=にご}った泡水が浅く流れるどぶ川に
汚れたぼろぞうきんが一枚
くしゃっと丸まったまま{ルビ棄=す}てられていた
ある時は
春の日が射す暖かい路上を
恋人に会いにゆく青年の ....
雨の降る仕事帰りの夜道
傘を差して歩く僕は
年の瀬に冷たい廊下でうつ伏せたまま
亡くなっていたお{ルビ爺=じい}さんの家の前を通り過ぎる
玄関に残る
表札に刻まれたお爺さんの名前 ....
よく晴れた日の午後
逃げ場の無い闘いに疲れた僕は
ベッドに寝転がり
重い日常に汚れた翼を休めていた
ラジオのスイッチを入れると
君の{ルビ唄声=うたごえ}が流れていた
窓の外に ....
真夜中の部屋で独り
耳を澄ますと聞こえて来るピアノの音
沈黙の闇に 響く「雨だれ」
( ショパンの透き通った指は今夜も
( 鍵盤の上で音を{ルビ紡=つむ}いでいる
写真立ての中で肩を ....
私が生まれるより前に
戦地に赴き病んで帰って来て間もなく
若い妻と二人の子供を残して世を去った
祖父の無念の想いがあった
私が生まれるより前に
借家の外に浮かぶ月を見上げて
寝息を立 ....
カレンダーを一枚めくり
二月の出かける日に ○ をつける
数秒瞳を閉じる間に過ぎてしまう
早足な{ルビ一月=ひとつき}の流れ
数日前話した八十過ぎの老婆の言葉
「 あんた三十歳? ....
一
昼休みの男子休憩室の扉を開くと
新婚三ヶ月のM君の後ろ姿は正座して
愛妻弁当を黙々と食べていた
「 おいしいかい?
結婚してみて、どうよ・・・? 」
と買ってきたコンビ ....
真夜中の浜辺に独り立つ
君の{ルビ傍=かたわ}らに透明な姿で{ルビ佇=たたず}む 詩 は
耳を澄ましている
繰り返される波の上から歩いて来る
夜明けの足音
君の胸から{ルビ拭=ぬぐ} ....
もう何年も前
遠い北国に{ルビ嫁=とつ}いだ姉が
新しい暮らしに疲れ{ルビ果=は}て
実家に帰っていた頃
日の射す窓辺に置かれた
白い植木鉢から緑の芽を出し
やがて赤い花を咲かせたシク ....
旅人よ
君は何処へゆくのか
その靴がすり切れるほどに
過ぎ去った悲しみの日々は背後に遠のき
名もない無人の映画館のスクリーンに
モノクロームの情景は映し出される
「ひとりの ....
いつのまに
我が胸に吹き込んできた
風の{ルビ女=ひと}よ
君が踏みつけられた花を見て
傘をさしたまま立ち尽くし
ひび割れた心のすき間をほの青く光らせ
雨音に{ルビ滲=にじ}む心を痛め ....
つまずいてばかりの日々にうつむいて
ちぢんだ心を{ルビ潤=うるお}す
水の湧き出る場所を探し歩いた
立ち止まり シャベルで穴を掘り続け
気がつくと
静まり返った暗い穴底にひとり
小 ....
親父は定年退職し
母ちゃん専業主婦となり
息子のぼくは半人前
母ちゃん家計簿とにらめっこ
ばあちゃんが払う食費も1万ふえて
なんとかやりくりの日々であります
雨もりがあふれる床
....
真っ青な空が広がる秋晴れの日
息絶えた老婆は白い{ルビ棺桶=かんおけ}に{ルビ蓋=ふた}をされ
喪服の男達の手で黒い車の中へ運ばれた
人生の終止符を告げるクラクションが低く鳴り響き
親族と ....
振り返れば
手の届きそうで届かない
「昨日」
に責任の全てを背負うかのように立っていた両足を崩して
独り誰からもかばわれることなく
地に身を伏せている私がいた
幻想の友情に終止符が打た ....
もう一度
その無数の紅く小さい花々を闇に咲かせたシャツの下に
酔って赤らんだ白い背中で
僕に{ルビ凭=もた}れてくれないか
なぜ
君の背中のぬくもりを
もっと素直に感じなかっ ....
頼りなげな細い女が
曲がりゆく細い道を
秋風に揺れながら歩いている
茶色く{ルビ褪=あ}せた{ルビ麦藁帽子=むぎわらぼうし}に顔を隠して
道の上に時は無く
女に年齢というものは無く
長 ....
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