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身体の隣には
太平洋があった
太平洋は凪いでいた

名の無い
小さな海が好きだった
その海は机の
引き出しの中にあった
机は遠く故郷に
置いてきてしまった

それなのに
 ....
乗れなかった列車
届かない指先
人混みの中
涙が頬をつたい
わたしは遅刻

会いたい人がいた
伝えたいことがあった
できることなら書類に
その滑らかなサインまで
いただきた ....
黙祷があなたを訪ねて来た
笑う門に来る福もあるのに
豆腐の角に頭をぶつけて
わたしの父は
大人しく一生を終えた

あなたは黙祷と
何かしゃべりながら
優しい手つきで
機器の類 ....
雨上がりの水槽が
好きだった
誰も手を挙げなくても
ありがとう、と
目をつぶった皆に
微笑んだ先生
一番後ろで薄目の
わたしだけがほんの少し
共犯でいられた
水槽を出ていった ....
あなたが転んだ
わたしは転ばなかった
並んで歩いていて
あなただけが転んだ
大きな怪我もなく
桜の花びらが落ちた

どうでもよいことばかり
ふと思い出す時がある
大切なことは ....
気泡を抱いて眠る
葉っぱの生る木に
今年も葉っぱが生ったよ
そう教えてくれた人の
顔と名前を思い出すのに
半世紀以上かかった

子供たちのふざける声が
外から聞こえてくる
季 ....
廊下。背中にも
季節があると知った
椅子の無い陽射しが
窓から海へと降り注ぎ
穏やかな陰影の様を作ると
雑学を語り終えたかのように
わたしは鉛筆を一本
また一本と折っていった
 ....
蛍が飛んで
わたしは彗星になった

わたし、すいせいに、なったよ

言葉なんてまだ
よく知らなかったけれど
許された気持ちになった

彗星なんて、つまらないわよ
母はそう言 ....
納豆をかき混ぜると
遥かユーラシアから
吹いてくる風がある
父は砂糖を入れるのが好きだった
母はそれを好まなかった
わたしは優しくありたかった
皆、少しずつ欠落していって
比喩は ....
お祭りの夜に
名前を落とした
人混みの中だった
大きな大人にぶつかって
うっかりと
落としてしまった
心細く泣きながら探した
やっと見つけ出して
元の所にはめてみたけれど
そ ....
裏窓を覗き込む
一艘の夏列車が停留していて
すっ、と
深呼吸を終えた
風を追いかける風の後ろ姿
もぬけの殻になった頁
ノートの終点にはいつも
書きかけの詩がある
男が現れて
 ....
家の隣に大きな空港ができた
生活は少しずつ変わり
通勤が楽になった
夜明け、窓から手を伸ばすと
冷たい滑走路に触れることもできる
到着ロビーの雑踏の中
洗剤を買いに行ったきみの
 ....
フラスコの洗浄
柔らかな
ガラスと午後の触感
他には何も無い音と
別の日
満員電車で吊革に掴まっていると
かなかなかな
隣にいる男の人が
ヒグラシの鳴き真似を始めた
夏が終わ ....
何もない風の中を
垂線
あなたから真下へ
昼間の備蓄倉庫
その物陰で
生まれては
消えていく
雲の断片
写真の中
あなたは記念になるものなど
何も欲しがらない
いつも
 ....
かいわれ大根
小さいけれど
わたしの収穫
何もないことが
朝だと知った

寄り添う、だなんて
なんだか軽い言葉
そんなものにも
救われたかった

窓を開けると
蝉しぐれ ....
陰影の先端
あなたの問いかけ
あなたへの問いかけ
か細い海はある朝
空白に塗りつぶされて
涼しい駐車場になった
壊れた何かが転がっている
見入ってしまった
初夏が立ち止まる
 ....
団地に風が吹く
床屋のおじさんが
大きな欠伸をする
口の中で夏が過ぎていく
金魚鉢が宇宙を漂っている間
友達の一人は
セメダインでおかしくなった
ベランダの無い人が
ベランダを ....
ある日、あなたの背中に
窓があるのを見つけた
開けてみると
普通に外の景色があった
眩しければ鳥になるといいよ
とあなたが言うので
わたしは鳥になって
空へと飛びたつしかなかった ....
鞄の中には
ひと握りの青空と
昨日捕まえた飛行機
微かなその羽音
生きていく毎日の走り書きは
遺言のように積み上がって
夏、という言葉だけが
いつまでも
うまく書けなかった
 ....
雨の初日
都会にも雨が降った
たくさんのものが濡れて
雨音の音や
雨水の水が
ふとした街路の様子を
美しく満たしていく
人混みの中で感じる
植物の吐息
どうしても
辿り着け ....
体温が微かに響く
駐車場の隅に捨てられた
古い型の深海に
街灯のあかりが
とっぶりと落ちていく
コロナの夜は
静かに進む
階下から聞こえる
くぐもった洋画の声が
唯一の栞だっ ....
電子レンジを開ける
中には海がある
波間にレンジが漂っている
泳ぐことは苦手だけれど
意を決し飛び込む
君との二人分の
ご飯を温めたかった
何とかレンジに辿り着き
扉を開ける
 ....
レタスの先端
心音のひずむところ
温度の終わりに
少し触れる
つめたさ
教室みたい 、
と思う

穏やかな湾の入口を
句読点が航行する
健康的な食事
その後で
わたし、 ....
痛点を通過する
ブランコに揺られて
春を待つ間に
チェニジアの
ハイスクールも
時間が経った
珍しく向かい風の
匂いがする朝
皮膚病だらけの
野犬に看取られて
誰もが死ぬ、 ....
卵を割ると中には
砂しかなかった
食べ物を粗末にはできないので
そのまま火にかけると
砂の焼ける匂いがする
今ごろ砂場では妻と娘が
いつまでも完成できない
卵の城を作っていること ....
とおく
らいめい
また
いのちにもどる
そうきめた

+

よりそう
じしょたち
きょうは
ことばの
おそうしきのひ

+

しずかな
かみのね
おわらない ....
陶器市に行きました
人や犬がいました
いろいろな色や形に
溢れていました
とても手頃なお値段だし
お金がないわけでもないけれど
何を買っても
わたしのものには
ならない気がしま ....

玩具のミニカーに乗りたい、と
息子が言うので
助手席に乗せてあげた
エンジンが無いと動かない仕組みを
なるべくわかりやすく伝えた
息子は勉学に励み
大人になって
ミニカーに ....
手はさわり
落ちていく
あたらしく
たどりつく波
その波のかたち
平日の空気を
涼しい寝台特急は泳ぎ
車体を残して
溶けていく

あなたは積木の
手本をしている
手は繰 ....
観葉植物に餌をやり忘れて
餌はやらなくていいんだよ、と
言葉で教えてくれた人がいた
階段のよく晴れた踊り場のあたりにも
エタノールの匂いがしていて
その間、何本かの準急列車に
乗り ....
ryinxさんのたもつさんおすすめリスト(62)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
小さな海- たもつ自由詩524-12-30
風の形- たもつ自由詩624-12-26
黙祷- たもつ自由詩224-12-19
雨上がり- たもつ自由詩424-12-12
後日談- たもつ自由詩5*24-12-5
午睡- たもつ自由詩324-11-7
雑学- たもつ自由詩724-11-4
蛍と彗星- たもつ自由詩224-10-31
納豆- たもつ自由詩424-9-26
名前- たもつ自由詩224-9-23
夏空- たもつ自由詩324-9-17
到着ロビー- たもつ自由詩324-9-11
終わっていく- たもつ自由詩524-8-28
記念- たもつ自由詩224-8-17
蝉しぐれ- たもつ自由詩624-7-29
しゃぼん- たもつ自由詩724-7-25
故郷- たもつ自由詩724-4-8
不在- たもつ自由詩17*24-3-23
走り書き- たもつ自由詩624-2-3
黒板- たもつ自由詩6*24-1-31
- たもつ自由詩424-1-24
漂流- たもつ自由詩524-1-9
ぽえむ- たもつ自由詩9*24-1-5
反射- たもつ自由詩7*23-12-31
卵の城- たもつ自由詩8*23-12-28
あまやどり(手帳の断片より)- たもつ自由詩823-11-26
陶器市- たもつ自由詩423-11-6
落とし穴- たもつ自由詩723-10-22
積木- たもつ自由詩723-10-19
夏の予定- たもつ自由詩7*23-10-15

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