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雲が雨へ
悲しみが涙へとほどけるように
もつれむすぼれた紐状の時感覚
遠近法と陰影を施されただけの
一枚の絵の中の記憶の構図と感情の色彩
それらすべてが
ことばへほどけるなら
数多の矛盾 ....
濡れそぼつすずめらが
低い枝から隣家の庭先へ消えた時
わたしは「あわれ」を見なかった
ただチュンにチュンを重ね
チュンの間と強弱で言い尽くす 
すずめらの韻律は人より力強く
雨音と斬り結び ....
交じり合う水の響き文字にはなれず
木陰に隠れ 泣く者もなく憎まれて
契りもけむる朝 嗄らす声すらなく

爆ぜる肌 墨でなぞった夜の谷
差すべに月になじむことなく
ゆがむ静寂に 息を重ねて
 ....
浮力を失くした夏を掌に掬い上げ
大地は死者と契る

数は数えるものではなく
総体として抱きしめることで
各章から噴き出す色彩の嗚咽や戦慄きすら
受肉した祝祭の肌を駆ける花びらであることを
 ....
そんな記号の縺れや絡まりを休日に解いている
きみは雨音に聞き入って 雨などとっくに止んだのに
トンボの翅を咥えたことがあるかって
森をさまよった少年が手入れもしないナイフを持って
復讐に来るよ ....
地の悲しみの澱を素足で吸い上げて
嘔吐する
花びらの金魚
収めきれず
破裂するまなざしの気配

その歌が流れると
わたしの中に風が吹き草木を揺らした
ことばは糸でつないだ骨片や貝殻のよ ....
音楽のせせらぎ
跳ねまろぶ輝き
クスクス笑いを隠すように
去っていった
あの永い一瞬
瞼の裏にホチキスで留めたまま
耳をふさぐ風
風のふところ
雲のにおい
クジャクチョウは目を覚まし ....
ぬれた星を見上げ
渇きをいやす
眼球は
キリギリスを歌う
風見の舌と睦みながら
吐血の祈り
内視鏡では
さかしまに蜷局を巻く
死は累々と
あどけなく惨めに
染みはそのまま
母の着 ....
ずっと夜に引っかかっていたい
蜘蛛の巣の落ち葉みたいに
まさぐる闇に身をまかせ
ふるえながら黙ったまま
水中に咲く花のよう
静かに息を
ひらいてとじて
やがて夜光虫が模様を描き出し
嘯 ....
秋は遠い
肩にこうべをあずけて眠る
ひとりの女のように

一匹のトンボがくぐりぬける
それ以外なにもない
綿の花をあしらった
青くくすんだヴェールの下

静かな死者の息づかい
遠く ....
つかまえて
響き奪い合う あの 声のもつれ 
贄になり損ねたひとつのくびれを
ハマナスの実を煮て
死んだかもしれないかもめに金貨を乗せた
白い靴下
うらがえる羞恥を指先で広げ
青ざめた自 ....
いまは夏休みということだ
同じアパートの一年生がアサガオを持ち帰り
朝晩水をやっている
ここ数日の暑さも少しやわらいで
きょう風はさかんに木漏れ日をゆらしている
濃い影から飛び立った 一羽の ....
地は曇天を映し
そよめきに雨の残り香
小舟に乗せられた
遺骨をひもとけば
けむりの舞踊
黒く曲がった釘の群れから
鮮血の唇が この耳に
かすかにからまって
はぐらかす
この惰性 内壁 ....
落胆を胸元からのぞかせて
あやめ色
切る風もなく
地をつたう眼差しに
まろぶ木漏れ日
翅ふるわせる
仰向けの蝉の腹は白く

罌粟のつぼみ
空き家の庭でふくらんで
子音がとける死んだ ....
よく聞こえる耳はいらない
なんでも見分ける鋭い目も
もっと聞きたいと思うこころ
飽きることなく見つめてしまう
忘我の時をいつまでも
得ることは失うこと
あらたな構築と古きものの破壊
たえ ....
不滅の太陽の血を飲んだ
魂は気化し地下茎は炭となり
盲いた幽霊のように手探りで
誰かの夢の中
朧な形象のまま
頬をつたうひとすじの水脈もまた
過去からのもの
借りものの幽霊


傾 ....
夜の雨に置き去りにされた眼孔ふたつ
うらめしげに空を見上げている
空は覗きその身を映す 
今朝は薄曇りを着ている
一羽の烏が横切った 
互いの胸中を ほんの一瞬
実像と鏡像に引き裂かれて
 ....
凪いでいた
こころは
畑の隅に捨てられた乾いた豆の鞘のよう
燃やされることもなく

冷気の中で目を覚ます
落日よ 
遠く烏たちを巻き込む業火の蕾
咲きもせず散りもせず

ふくれあが ....
わたしは曇ったガラス窓
指先で書く文字の向こう
許容できない現実が冬の仮面をつける

ひとつの痛点が真空を真中から押し潰す
円く膨らむ響きの肢体 震えの侵食を
包む衣としてまなざしは海
 ....
鏡の姿に名前を付けて
おもねる風
抑揚のみの面差しに祈りはなく
わたしはわたしを分類する
嘔吐する
海はしきりなしに
ほぐれてゆく死者の掴み切れない
ほほ笑みのにごりを
静かに見送る唇 ....
{引用=鬱蒼}
鉈で枝をはらう
雑木林に入口をつくる
入ったからといってなにもない
暗く鬱蒼としたそこに
誰を招くわけでもないが
時おりもの好きな通行人が
ちょっと覗いては去ってゆく
 ....
{ルビ銀杏=いちょう}さざめくつめたい朝
靴を片方なくした人影を見た

暗幕の蝶も枯葉に埋もれ
くちびるにもうふれることはなく

寝息のように自転車は
静かに時計を回している

{ル ....
悲哀がトグロを巻いている
酒も飲まずにやっかいなやつが
これ見よがしの独白を不幸が笑う
瞑ったまま見通し脳内で溺死する

斜陽を浴びて滲む色すらない
沈黙の唇はただ冷たい
獣の思弁よ
 ....
砕けた光 秋の匂い
五感は透けて
感傷の古池に浮かんでいた


黒光りする虫をつかまえて
ピンで留めてみる
不器用にもがいていた
鋭い大顎も暗器のような爪も
ただの装飾へと変わってゆ ....
人類の記憶の総体から
名札のない死体ばかり幾つも幾つも
バラバラにされて脈略もなく
いたるところからあふれ出して来る
机の抽斗から冷蔵庫から本の隙間から
シャワーを捻ればそこからも
一匹の ....
わたしは太陽を取り出した
黒アゲハで覆われた
生まれる前の静かな光を
誰かのノートの上で風が踊っていた
人の総体としての手その指の間からこぼれ落ちて
地図上にはなにもない
埋もれた時の痛点 ....
透明な身体からひとすじの血が流れ
その血は歩き出す
煙のしぐさで ふと立ちどまり
頬杖をつく 女のように男のように

見るという行為が人を鏡にする
歪んだ複製を身ごもり続けることを「知る」 ....
ひとつの声が磔にされた
影が七つ震えていた
見つめるだけで魚の群れを孕み
蒼いシーツをまとって巻貝を奥へと遡るひと
血を流す鍾乳石
鏡自身の顔 
その微笑み
宝石箱に喰われた指
そのク ....
{引用=水辺の仮庵}
月は閉じ
口琴の瞑る仕草に川の声
白むように羽ばたく肌の{ルビ音=ね}の
ふくらみこぼれる光は隠れ
ふれて乱れたこころの火の香
探る手をとり結んだ息に
ふりつむ{ル ....
{引用=転倒者}
氷の上を歩いて行く
遠い人影よ
鴉のようにも文字のようにも見える
視覚より内側でランプが照らした顔
ありきたりな片言の答えをかき混ぜる
ティースプーン 
濁った銀
だ ....
朧月夜さんのただのみきやさんおすすめリスト(49)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
一筆書きのたましいは- ただのみ ...自由詩6*24-10-20
- ただのみ ...自由詩4*24-10-14
棚機つ女と姦通す- ただのみ ...自由詩4*24-10-6
八月の狩蜂- ただのみ ...自由詩3*24-8-4
白黒テレビ- ただのみ ...自由詩6*24-7-28
あの虫がいるのは窓ガラスの内側か外側か- ただのみ ...自由詩6*24-5-26
春偏愛- ただのみ ...自由詩5*24-3-31
よみがえる- ただのみ ...自由詩5*24-1-27
夢魔の膝枕- ただのみ ...自由詩10*23-10-8
孤独なポーン- ただのみ ...自由詩5*23-9-30
くびれ- ただのみ ...自由詩4*23-9-16
百鬼百景- ただのみ ...自由詩5*23-8-5
惰性- ただのみ ...自由詩3*23-7-9
快楽を乗せて- ただのみ ...自由詩2*23-6-10
死者の数だけ歌がある- ただのみ ...自由詩3*23-5-20
生死の花束- ただのみ ...自由詩3*23-5-14
夜と雨の幕間劇- ただのみ ...自由詩3*23-4-30
土と銀- ただのみ ...自由詩2*23-2-25
逃避ではなく殺害- ただのみ ...自由詩6*23-2-4
無垢な悪食の旗の下に- ただのみ ...自由詩1*22-12-31
冬の禁断症状- ただのみ ...自由詩4*22-12-10
さまよう地下茎- ただのみ ...自由詩3*22-11-12
投身万華鏡- ただのみ ...自由詩3*22-10-30
魔鏡の焦点- ただのみ ...自由詩1*22-9-10
神隠し- ただのみ ...自由詩2*22-9-4
わたしとあなたとだれか- ただのみ ...自由詩2*22-8-21
解くことを諦めた知恵の輪が唯一の遺品だった- ただのみ ...自由詩1*22-7-23
鼓笛隊は反旗をひるがえす- ただのみ ...自由詩4*22-5-15
ノクターン- ただのみ ...自由詩4*22-2-19
ラジオ切腹- ただのみ ...自由詩2*22-2-12

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