海に落ちた
私のこころは
その重さゆえ
ふかい底へと
しずんでゆく
光もとどかない
暗闇のなか
浮き上がることのない
記憶たちの墓場に
たどりつき
泣きぬれ ....
うつむきかけて入ろう
肩の荷を降ろして
この時だけは何にも縛られず
純粋で居られるよう
あなたは守られている
あなた自身の背景に流れる音達の
千手観音の手達に押されて
ビート ....
でこぼこ道を
なんとか歩いている
つまずいたり
たおれたり休んだり
よわいから
まけてしまうのだ
ゆがんだ心に
ふりまわされて
いつもひとりきり
こころ折れて
ふさぎこ ....
思いもよらないタイミングで
民の意思が問われる時が来た
自然界に
完全な黒も
完全な白もないように
人に
完璧な論理は求めない
しかし
議論はしても
結論は決まっている
....
眠れぬ夜はごそごそと
布団の中で詩を紡ぐ
眠れないのは何のため
眠れないのは誰のため
眠れないのは我のため
嫌なことがあった日に
しっかり眠ると嫌なこと
しっかり記憶に残るらしい ....
{引用=ひび割れ}
雨音は止んだが
雨はいつまでも
乾くことのない冷たい頬
満ちることも乾くこともなく
ひび割れている
悲しみの器
{引用=天気雨}
泣きながら微笑むあ ....
クラゲが優美だ
イルカが跳ね上がっている
イグアナがのっしのっし歩いていく
森の木々のあいだから空が見える
人間が笑っている
大きな波がループをつくる
飢餓のキャン ....
静かだなあ
今夜はなんとも静かだ
昨夜からの疼痛が
今は嘘のように収まって
気持ちも
まぁるく落ち着いて
こうして詩の言葉を綴る自分が居る
ちらっと記憶の奥を覗いてみたり
火照る身体を ....
静寂は ひとしずくの海
見つけたときに失くした
永い 一瞬への気づき
目覚めの夢の面立ちのよう
雨と風のかすみ網
囚われていつまでも
九月はつめたい考えごと
ひとつの確固 ....
庭の柿の木は ざらりとしたぬくい腕で
小さなころからずっと わたしを抱きしめてくれました
おばあちゃんがわたしを
だっこもおんぶもできなくなったころから
わたしはランドセルを放り出して
....
月までは案外近い
いつか行き来できる日もくるかも、と
あなたはいうけれど
それが明日ではないことくらい
知っている
人は間に合わない時間が在ることを知っていて
間に合う時間だけを生きてゆく ....
木々が襟を立てて拒む間
風は歌わない
先を案じてざわざわと
意味のないお喋りを始めるのは木
いつしか言葉も枯れ果てて
幻のように消えてしまう
すっかり裸になると
しなやかに 風は切られて ....
なみたつバイオリズム
無数の引っ掻き傷が欲しがっている
ドン・キホーテも笑っている
喜劇の様な悲劇を演じては
燃え尽きそうな小さな乏しい石の塊
過去の幻影に囚われ
欲求が満たされぬ ....
「悲しみって 日替りね」
少し軽めの春の陽気がつぶやく
金色の教室で新しいサヨウナラを見つけた
無人の机は古びた傷を刻んでいた
君の挨拶もサヨウナラとつぶやいていた
悲しみの言 ....
影かすめ
ふり返り だれも
――夏よ
荒ぶる生の飽食に晒された{ルビ石女=うまずめ}よ
あの高く流れる河を渡る前に
刺せ わたしを
最後に残った一片の閃光をいま
仰向けに ....
まだ強い日差しを俯く花のように
白い帽子で受けながら
歩道の向こう
小柄な婦人が歩いている
ゆれるバッグの中で
小さな鈴が歌っている
{引用=――しゃらん しゃららん}
たったひとりの{ ....
{ルビ蛇=わたし}は脱皮した
相変わらず{ルビ蛇=わたし}のままだったが
少しだけ清々しい
肌感覚で世界を捉えている
かつて外界と接し敏感に反応した
主観的感覚と一体だったものが
....
朝だ
もうこんなに明るい
のだね
不思議だよ、
それにしても
昨夜はあんなに
ふらふらだったのに
今朝まで一眠りすれば
力、漲り
こうして詩が書ける駆ける
眠りの底から
....
{引用=夜明けのこない夜はないさ
あなたがぽつりいう}
懐かしい歌が
あの頃の私を連れてきた
そして今の私が唄うのを
遠い窓枠にもたれて
聞くともなく聞いている
夜のはてない深さと距 ....
最初とりとめもなく
かわいた歩道にうずくまる影を
そっと押さえただけ
絵本の中の魚を捉えた
子猫の白い前足のように
半眼で
光の粒の粗い朝だった
明けきらぬ森の外れ
木漏れる光にふ ....
乱雑に積まれた古本の階段をうっかりと
踏み外して雪崩る時間
目眩き
感光した
若き夏の日の窓辺
白く濁る波の音
瞑り流されて
大好きだった ....
雨色の絵具
乾かない涙と癒されない傷のために
散り果てた夏の野の花を
鎮魂に疲れ果てた大地へ捧げる
生者の燃え盛る煉獄へ
死者を捉えて離さない
空砲の宣言と
紙で織られた翼のために
憤 ....
キーボードの上で
テントウムシが{ルビ触覚=おぐし}を直している
ENTERの右の
7HOMEと8←との間
溝にハマった姿勢だが
寛いでいるようにしか見えない
{引用=どこから とか
....
白い蝶 光の眩暈
追って追われて
追われて逃げて
見えない糸が絡んだように
もつれてはなれ
はなれてもつれ
火照った空気に乗っかって
この夏の向こうへ
恋と憎しみは良く似ている ....
{引用=*名を呼ぶ}
名を呼ぶ
ここにいないあなたの
井戸へ放った小石のように
真中深く 微かに響き
瞑っても
抱き寄せることはできず
こみ上げる揺らめきの
糖衣はすぐに消えて
....
いつか完成するだろうか
あばらの中のいくつかの空洞は
満たされて、微笑んで眠るだろうか
脂肪に埋もれる柔和な女になれるだろうか
昔は違ったのよ
と笑って言うことができるだろうか
抱 ....
Venus flytrap
抱擁から解き放つと
――心臓から飲まれていたのはわたし
黒い孔雀は飛び去った
眼差しの影ひとつ
落とすこともなく
時の支流が無数に重なり合う彼方へ
ひとつ ....
つかみどころのない臓器
痛みはあっても在処のない
つるりと気取った陶器
来客用もちゃんとある
すきま風の絶えないあばら屋
震えている いつからここで
過敏すぎる 肉を削いで裏返 ....
道端で色褪せていく
この盛夏に色褪せていく紫陽花よ
アゲハ蝶がその繊細な触角を動かし
咲き誇った花から花へと優雅に飛び廻る時
あの青々と濡れ光っていたおまえは
早くも凋落の一途を辿っている
....
世界がある
世界がうかぶ
捉えようのない空間
捉えようのない生命
科学的に分析すれば
緻密な世界が
波をうち
熱をおび
うごめいている
体系的に渦を巻き
一定のリズムで ....
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