白熱電球の下で
彼らは蛾の分類をする

人魂は寂しげに
天井の隅を漂っていた
馬面の犬が
馬なのか犬なのか
誰にもわからない

郊外をギャロップで
駆けていく
古い人体解剖図
の中の男に
愛をささやかれる
姉の腹が膨らんでいく
膨らみはじめて
もう二十年になる
触ると暖かく
耳をあてると
なにかが聞こえる
まるで気球のよう
というわけで
針を用意してある
冷蔵庫の中から
あなたが出てきて
おとなになりたかった
と訴える
こんな夜には
ビルよりも背の高い
おとなになりたかった
おとなになりたかった
月が落ちると
どこかで首が落ちる
水槽に毒を溶かすと
呼吸が苦しくなる

わかっていた
世界はつながっている
雨が降って
図書館は水びたし
人々は閲覧室で
「メディアは戦争に」
「どうかかわってきたか」
議論する
セミ
かと思ったらエビ
枝にたくさんの甲殻類が
困っている
泳ぎ疲れて
クジラの胃に泊まる
窓から見えるのは
昔の日々

未来のいつか
彼らもここに来た

彼らもここで
消化されていった
雨の中で
人だけがいない
獏園

時が経つと
美しい観光地になる
届かなかった
無数の声を
毛むくじゃらの姫が
歌う

時計が砂になるほどの
はるか昔の
花束
人間が砂になれば
人間は忘れられる

本当の微生物
が織りなす不思議
風通しのよい現場
ここからは池が見渡せて
石碑もある
ラジオ体操もある

小学校は半休
午後は快晴

資料館に人はなし
殺人もどこかのどか
井戸に霊落っことしたって
死ぬわけじゃあるまい
死ぬわけじゃない

彼女はおしゃべり
触れなば落ちん文月の月
青いビニールシート
に血が垂れて
かぶと虫が寄ってくる

私たちはオレンジジュースを飲む
駅から
山の手に上る道
建物に入れば建物から出る

犬には
餌をやらない
とは言わなかったが深緑
の海の底でシャワーを浴びる
人魚の群れ

いずれ死ぬ花と骨の埋没
港湾クレーン

墓石に白と赤の花が飛び交う

魚の影
桜の樹の下には雪が埋まっている
焼け残った桜の樹の下には
百年前の粉雪が
いよいよ冷たく固まっている
ほのかに白光を帯びて
樹の根とたわむれ
黄泉と混じり合い
はるかな夢にまどろんでいる ....
郵便が届く
土間には闇が煮凝っている

突然降り始めた雨が
突然止む
いつでもそのようにして
決定がなされる

封をした血
もしくは黒い布
もしくは蛇の地図
砕けた枯葉

ば ....
女が鳥居で首を吊っている
わたしはそれをくぐって行かねばならない

ふらふらと風に揺れる足を押すと
垂れた髪の間から睨みつけてくる

おれはここで道を切っておるのだ
おまえは何の因果があ ....
ここで崖が崩れたことがあった
大勢が土の下に埋もれてしまい
まとめて葬式を出すことに決まった
それにはとむらいの家の数にだけ
茶碗をかけらに砕き
使者に持たせて知らせとする
各家がかけらを ....
この畑では猿を作るという
春のある朝 まだ暗いうちに
大根のような葉を茂らせた畑から
泡の弾けるがごとき音を出して

猿が飛び出る
猿が土から勢いよく
無言で かつ しかめつらをして
 ....
ちょっと一曲流していってくれと
手を引かれた先にはいかにも豪農風の屋敷があり
その内庭といおうか畑地といおうか
平らにならした広場にはすでに人が立ち集まっていた
聞けば数十年に一度の祭りの前祝 ....
りゅうぐうのつかいを飲んでしまった
寒天のようだったから つい
つるつると飲みこんでしまった
せっかく遠いところから来てくれたのに
まさか飲んでしまうとは と
母屋の人たちは驚いている
わ ....
かかとの痛みで目を覚ます
起き上がって見ると 猫がかじりついている
しっしっと追い払う
そしてまた夢に戻る

夢の中でわたしは井戸のそばにいる
これから家に帰るところで
桶を抱えて立ちす ....
おおきなつづらを背負っている
つづらを背負って鳥居をくぐる
そこにまっ黒い小坊主が寄ってきて
その中には割れた茶碗が入っているんだろう
ぎっしり詰まっているんだろう
と にやにや笑いながら言 ....
あそこらへん ほら
崖にでかい南無阿弥陀仏が彫られてるだろ
何百年も前から難所でなぁ
道が狭いっつうのもあるんだが
化けものが出るとか出ないとか
まあ昔から危ないところなんだわ
五十年前に ....
お好み焼きちょうだい
と声かけて
奥からハーイと生返事
大丈夫かなぁと思いながら
しばらく待っていれば
窓の外に山が見える
頂上はきれいな銀灰色
杉の梢は空高く
引っ張ればぼろっと落ち ....
板が立てかけられているところに
通りがかって横目で見ていると
いい板だよ と呼び止められて
いい板なら とその気になった
でも板なんか買って
どうするんだろう
黒い油が浮いた板なんか
壁 ....
春日線香(330)
タイトル カテゴリ Point 日付
浮遊自由詩111/8/6 13:03
冗談自由詩111/8/6 13:02
秘密自由詩211/8/5 10:15
妊娠自由詩311/8/5 10:15
エンカウント自由詩1111/8/4 9:19
世界はつながっている自由詩011/8/4 9:18
幽霊自由詩111/8/3 7:35
誤訳自由詩411/8/3 6:32
ミュージアム自由詩311/8/2 3:55
圏内自由詩211/8/2 3:55
夢の果て自由詩211/8/1 3:55
記憶自由詩011/8/1 3:42
七ツ森殺人事件自由詩311/7/31 3:22
落果自由詩011/7/31 3:21
演劇自由詩411/7/30 3:21
手紙を結ぶ自由詩111/7/30 3:20
これは雨自由詩211/7/29 3:19
坂の多い自由詩011/7/29 3:11
桜の樹の下には自由詩210/8/31 14:01
訃報自由詩610/7/17 6:18
道切り自由詩010/7/11 15:24
「五月闇」抄自由詩110/5/21 14:39
自由詩310/5/20 10:11
竹林自由詩510/5/4 2:20
りゅうぐうのつかい自由詩510/5/2 0:20
追放自由詩410/4/30 23:58
つづら自由詩410/4/30 1:51
鬼に聞いた話自由詩310/4/29 0:29
お好み焼き自由詩410/4/27 11:44
自由詩610/4/27 3:17

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