あの日を境にわたしの中から
    わたしがいなくなり
    半透明な海月になった
    荒ぶる海流に叩きつけられ
    なす術もなく右へ左へ
    痛みとともに流され続けた ....
     今夜わたしは玉葱を刻む
     包丁の切れ味は鈍いが
     こんな夜にはちょうどいい
     指先と玉葱と踊る包丁
     それだけを見つめ、不器用に
      ....
   暗闇で会話する
   わたしの鼓動と
     
   悲しくはない?
    ―かなしくはない
   
   寂しくはない?
    ―さびしくもない  
   
   無理 ....
     夕餉が終わると皿を洗い
     油や醤油で汚れた台所を
     布巾でぬぐう
     鍋も皿ももとの位置に戻し
     静けさと落ち着きを取り戻す
     風呂を ....
   おやすみとクロネコの頭なでながら光らぬスマホ強制終了

   疲れたねと話す相手は猫ばかり、そのうちニャーと泣いてみるかも

   ごろごろとすり寄っては喉鳴らし猫かぶりをする腹 ....
   あれは空だろうか
   それとも海だろうか
   わたしが欲しかったのは
   あの青だったのだ
   体中の骨を関節を筋肉を
   すべてを伸ばし
   掴もうとす ....
     木々は裸に剥かれ冷たい風に
     枝先を震わせている
     白いベンチは錆ついて
     今はだれも座るものもない
     緑の葉が深呼吸を繰り返す
      ....
      『ママは怒ると頭からしょっかくが生える』
      と姪が言いだした。

      『しょっかく?』
      思わず聞き返すと神妙な顔をしてうなずく。

  ....
    米を研ぐ
    それは繰り返される日々の儀式
    手のひらにあたる米粒はかたく
    米どうしがぶつかりあい
    じゃっじゃと音をたてあう
    このかたいひと粒ひと粒 ....
   まばゆい光も届かない
   みどりの風もそよがない
   暗くて冷たい土の中
   眠る一匹のへび
   春の調べをなんときく
   小鳥たちのさえずりか
   隣で眠る種のうずきか ....
      秋刀魚のような
      ひとでした
      辛味のきいた
      大根おろしが
      ほどよく似合う
      それはおいしい
      ひとでした
 ....
     わたしは帰る
     猫の住む我が家へと
     服も靴下も脱ぎ散らかし
     ひんやりとしたベッドへ
     もぐりこむ
     鼻先の生温かなけものの匂い
 ....
     きらきらと
     ひかる星たちかくしもち
     きみは泣く
     ちからのかぎり
     きみは泣く
     まっすぐに
     ひたむきに
     た ....
     こんなひは
     ひんやりとした床で
     寝たふりをするより
     とったばかりのいんげんと
     てんぷら油の格闘に
     歓声をあげてみたり
  ....
    蒼くて暗い水槽で
    浮かぶ海月のそのさまは
    まるでたましいのようなこと
    ふうわりとぷかぷかと
    あてどもなくぶらぶらと
    行きつく先もわ ....
      かなしみはいつだって
      握りつぶされた
      缶コーヒー
      むけられた怒りは
      やり切れなさと
      くやしさの色をにじませ ....
    

        ずうんと長く
        夜がこないので
        すみれの花で
        まぶたをふさぐ
        薄っすらと閉じ切らぬ
       ....
     まっしろなカップに
     夜が満ちる
     からっぽなわたしは
     真っ暗な部屋で
     夜を見つめてすごす
     安堵のなか
     ごくり ....
      

      ガタコトゆくのは2両電車
      田舎のしがない私鉄です
      その座席に座るわたしは
      上下左右にからだすべてが
      揺れるのです ....
      まつげの重さに耐えかねて
      そっと伏せてはみるけれど
      わたしの瞳は夜をみる
      散歩の途中の道端で
      みつけたちいさな青い花 
    ....
      参ります、参ります
      もうすぐそちらへ参ります
      陽の当たらぬ公園で
      凍えたブランコ揺れている
      さくらの蕾はふくらまず
  ....
     
       あの日の空は青かった
       夏が終わろうとするほんの手前
       夕暮れ迫る束の間の時刻
       受話器の声が世界の音を奪い去る
      ....
     しゅんしゅんしゅんと
     蓋をカタカタ鳴らしながら
     やかんがじれている
     それを尻目にガリガリと豆を挽く
     ペーパーフィルターの二辺を
     丁 ....
    

      すべてが寝静まり
      寝返りと寝言の中で
      やかんを磨く
      あしたはどんな一日に 
      なるだろう
      油で汚れ焼けた ....
      ゆきのひつじが  
      はらはらと 
      いっぴき、にひき
      ねむれぬよるに
      ふりつもる
      はるをまって
      ....
       かくしてください
       さみしさが襲います
       昼と夜との狭間から
       からだと毛布のすき間から
       飲み終えたコーヒーカッ ....
      毎朝冷たい風に吹かれながら
      洗濯物を干すその手は
      ひどくかさつき荒れていた
      誰よりも早く起き
      米を研ぎ、味噌汁をつく ....
     家が死んだ
     広い庭に大きな木のある
     昔ながらの家だった
     縁側のあった家は壊され
     大きな木はどこかへ運ばれた
     乾かす洗濯物も ....
      折り紙を折るその指先は
      あどけなく、いつも湿っている
      クレヨンを持つその指先は
      つよさを隠しもっている   
      あした晴れたなら手をつ ....
     薄暗い台所で
     小さなボールを抱え
     温めた牛乳を昔ながらの泡立て器で
     けんめいに泡立てる
     しゅんしゅんしゅんと薬缶が
     今にも ....
石田とわ(236)
タイトル カテゴリ Point 日付
白い月自由詩9*16/4/17 3:01
玉葱色の眠り自由詩9*16/3/27 23:54
鼓動自由詩7*16/3/12 0:56
漂白のとき自由詩12+*16/3/3 2:40
猫日和短歌4*16/2/28 23:00
青になる自由詩16*16/2/24 0:37
錆びたベンチ自由詩13*16/2/22 23:53
でんでんむし自由詩11*16/2/15 0:34
研ぐおんな自由詩15*16/2/11 23:46
幕開け自由詩7*16/2/3 23:35
あのひと自由詩1015/9/7 23:09
金の目と金の月自由詩16*15/9/4 23:37
きみの星自由詩14*15/7/24 18:08
こんなひやあんなひに自由詩19*15/7/15 23:15
蒼のなか自由詩11*15/6/26 0:45
コーヒー色の夜自由詩17*15/3/24 0:06
夜想曲自由詩16*15/3/16 1:11
月なしの夜に自由詩20*15/3/3 1:04
ソックスと田んぼと菜の花と自由詩14*15/2/27 1:20
瞬きを聴く自由詩8*15/2/20 0:09
如月便り自由詩9*15/2/19 0:24
青い夕暮れ自由詩12*15/2/13 1:40
束の間自由詩14*15/2/3 22:35
やかんと夜と自由詩17*15/1/27 2:56
ゆきひつじ自由詩13*15/1/23 22:36
眠りのなかへ自由詩11*15/1/22 1:27
紡ぐ日々自由詩17*15/1/20 21:43
ひとり陽だまり自由詩10*15/1/20 0:27
ふしぎがいっぱい自由詩14*15/1/15 23:41
茜の記憶自由詩11*15/1/14 0:41

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