スーパーの駐車場に
小さな犬が繋がれていた
妙におどおどした態度で
あたりを見回している
近寄って撫でようとしても
触れようとする手を避けて
絶対に撫でさせないのだ

きっと飼い主は
 ....
蛍光灯が明滅している
何度か取り替えても
変わらずちかちかしている

アパートの前にタクシーが止まり
客を降ろして走り去った
と思うと、降りた客が追いかけて
行きかけたタクシーをもう一度 ....
遅い帰り道は
雨に濡れててらてら光る
路側の白線に沿って歩くと
導かれているようで
なんだか安心する

怖いものは何もない
たとえば気づかずに
かたつむりを踏みつぶしていた
なんてこ ....
誰が触れたの
あのあじさいはうつつ

電話が鳴ると
いつも人が消える
挨拶をするたびに
息の中を遠ざかっていく

音もなく
暗がりの横顔は白く
また手紙を書くよ
流れ流れてゆくの ....
泳ぐ人々の
夢で見られた
歌の練習をした廃屋に
きみの写真が飾ってある
と言ってくれたっけ
でもそうやって
憧れているわけにもいかない
細かな雨をまとった電車は
地面の下に
郊外を滑 ....
夜明け前にはいつも
街路樹が一瞬だけ背伸びをする

夜のうちに出されたゴミ袋は
浅く水たまりに浸かって
少しの間まどろんでいる

生きていた時のこと
本当に言ってほしかったこと
使い ....
夜中に目が覚めて
屋上の鉄がさやさやと鳴り
滴りの下で
首を引っ掛けては結び
あやとりが永遠に
終わらないとしたら
どうする?
人かとも見える群れは腕を
どこまでも伸ばそうとして
川 ....
埋められないもの
菫の青
肩に触れる風
新しい靴底で感じる地面の硬さ
夜にはずっと
夜の歌を
花には静かな
生きることがまだ
残されていた
クーブラ・カーン
 あるいは夢の裡なる王土にて、断章

クーブラ・カーンは宣り給う
ザナドゥの地には歓楽の宮が建立されるべきであると。
聖なるアルフの流れが彼の地を潤し
人知の及ばぬ洞窟を ....
水を
拭わずにきた
ざわめきの彼方から
萎んだ心臓は
息を送り出し
闇の下生えに隠し
やまいは花を
群生は
水かきの張った手で
がらんどうの
再生を試みている
伸ばせばそこに
 ....
まどろみの
虚ろに耐えている
生物がいると
伝えてくれたこともあり
それならばこのようにして
指を浸し
呼び止めるならば
花は花を覆い
応えた面影の数にだけ
ゆるく髪を梳かし
蛇行 ....
……夫の死に際して


ああ、あなたは行ってしまった――わたしは一人残されて

なんという憂愁の時を過ごさねばならないことでしょう

喜ばしく輝ける太陽は没し去り

光輝の国にも闇が ....
映画が終わり
グラスの水滴が流れて
伝わっていく泉に
手を浸す
深夜のこと
頬にスタッフロールは
逆さに雨となり
取り返しのつかない
早回しにも似て
繁茂した
森の奥に隠されている ....
指に取った
灰を
目蓋にこすりつけるようにして
受け入れる覚醒を
外光が
青くあなたの胸に入りこむ
胸に幾筋の
線を流して
待っている――待っている
片方だけ裏返ったスリッパは
ま ....
鳥の
輪を描くように
腕の中で時計を
守ってほしい
日に細かな気泡の浮かぶ
ガラスの器に
首の折れたストローを挿して
二重になった影を
辿ってほしい
絡めた指先から
震えとともに
 ....
淡い音
はなればなれに息
まぎれ
生い茂るものの朝
皺の寄った
星のスカートは
どんな夢を見ている?
高空に静止して
流れていかない雲を
つかもうとした
夏の花
削り取った窓に
 ....
瞳を
置き去りにした
夢見ながら
止まった時を遡り
写真の中で
あらわな通せんぼうをしている
視界は遮られ
鼓動は
手遊びのように
雑草のように
刈り取られると
ぶら下がった足を ....
蝶が
土にたかり
互いの喉に触れ
青い夢を見せる
幾度もの成熟
生まれ変わりを
軌跡を描き
焦がされている
羽が
また地面に落ち
辿りつけない木陰に
終わらない
あなたが死んで ....
怖い夢から目を覚まして
私たちは古い座敷に
手紙を持ち寄っていった
食事の支度をしたり
庭の草むしりをしたり
そうやって日々を過ごすことが
供養になればいいと
言葉少なに話した
遠くで ....
七味唐辛子を壜に冬日和 廃バスの窓に無数の烏瓜 あの人が欲しいと猫に頼んでも黙殺される血の日曜日

空色のホースの中をのろのろと運ばれていく真っ赤な金魚が

人のいない午後は眠くて寂しくてひよこを埋葬するにはぴったり

淡々と折りつづけ ....
着るほどに寂しくなりぬ夜寒かな 風ぐるまくるりくるりと目を回すロールケーキに巻かれて眠り

千年のあいだ噛んでたガムあげる兄さま姉さまご賞味ください

瀬戸物の茶碗が砕けてばらばらになりつつ地下を大冒険する

警官にやさ ....
星月夜廊下は長くのびており 百万の蛙と同じ数だけの忍者がいると思えば楽しい

この夜の全ての書肆の灯りをも狂って吹き消す風のいじわる

大輪のひまわり折れているばかりこの世の息をあの世でも吸え

舞殿で無心におどる鬼 ....
梨の始末をどうしよう
この梨を線路に設置して
レールと車輪の間でひき潰すなど
してみたいが
どこか目立つところに
置き去りにしてやりたいが
梨がきゅうきゅう鳴くので
ずっと持っている
 ....
彼女は残念な人
塩と砂糖を取り違えるとか
それならまだいいが
今日はイオと間違えた
イオとは木星の衛星であり
今この部屋を
星の軌道がゆくりなく通る
地下界の延長として彼岸花 おそくきて勇魚死ぬる浜寒し
春日線香(330)
タイトル カテゴリ Point 日付
繋がれた犬自由詩113/6/22 4:48
蛍光灯自由詩513/6/21 2:10
気がかりについて自由詩713/6/20 3:38
六月通信自由詩113/6/16 4:11
黒猫自由詩313/6/13 4:50
人魚自由詩413/6/3 21:40
メルヘン自由詩313/6/2 2:38
夜の歌自由詩513/5/24 1:00
サミュエル・テイラー・コールリッジ『クーブラ・カーン』(“K ...自由詩0*13/4/26 2:00
水棲自由詩113/4/20 2:03
自由詩313/4/15 14:11
メアリ・シェリー『帰還』(“Absence”)自由詩013/4/7 2:58
眠りの淵で自由詩612/9/5 4:15
Incantation自由詩112/9/4 12:14
灯台自由詩612/9/4 2:36
束の花自由詩112/9/3 21:11
追想自由詩112/8/31 0:46
夏型自由詩412/8/17 9:44
供養自由詩511/12/18 15:09
冬日和俳句3*11/12/14 11:40
烏瓜俳句311/10/27 8:17
日曜日に別れを告げて短歌3+11/10/25 12:06
夜寒俳句211/10/25 2:59
独楽の回転短歌111/10/24 2:35
星月夜俳句311/10/17 1:58
まつりのあと短歌211/10/16 18:22
梨の始末自由詩311/10/16 9:21
残念な人自由詩411/10/13 10:37
彼岸花俳句211/10/12 6:25
勇魚俳句111/10/11 19:27

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