おれは桃太郎だ、桃太郎なんだと鬼が言うので
あんたは桃太郎だよ
どこから見てもそうだよと頷いてやる
鬼は心底ほっとした顔で
でも空っぽになったような目をして
暗い森の中に帰っていく
わたし ....
犬や猫や蛇が増えてきて
だんだん部屋が狭くなってきた
布団を敷くにも食事を用意するにも
いちいちまとわりついてくるので
うっとうしくてしかたないのだが
あとでどうにかしようと思っているうちに ....
夜中に地震で目が覚めて
地震が起きるたびに
いろんな神社の鳥居から
小石がぱらぱら落ちているのだろうな
と窓を開け閉めして
もう一度、すとんと夢の中に入る

夢の中では栗の木林にいて
 ....
店先でいきなりりんご齧ってやろうか
店番は慌てるだろうな
噛んだら血を吹きそうな赤いりんご
いきなり齧って
お金も払わずに逃げてやろうか
みんな唖然とするだろうな
舟に乗って逃げてやろうか ....
紫色の紙が足りなくなってしまった
急いで買いに行かないと、もうすぐなのだからと
気ばかりがいたずらに焦って
どうしたらいいかわからない
今までどこで買っていたかなんて覚えてないし
手配してく ....
化粧箱や封筒の
中には宝石があるものだと
女の子はそれくらい知っている
馬の形をした雲を追いかけて
知らない道を行くと
その細道の先には橋が続いて
途中、別れの言葉を思い出して
しゃくり ....
ふと箸を落としてしまい
屈みこむと、床に米粒が続いていて
点々と拾いながら進んでいく
客間へ、座敷へ、縁側へ
いつしか古い蔵の脇を通り
門から出て、人通りの少ない裏道のほうへ
白く輝く米粒 ....
かぶと虫になったわたしが
瓷に頭をつっこんで蜜を吸っている
西日も射さない土間の隅で
瓷の縁に手をついて蜜を吸っている
本当はこんなこと許されていなくて
惨めでたまらないのだけど
もうかぶ ....
{引用=
奥は暗くておそろしければ… 和泉式部

ふいに戸を閉められて
暗い場所に置き去りにされてみれば
息をするのもままならぬほどで
手探りで進む手に
布がひらひらとまといつく
天 ....
空の彼方に
雲がすばやく流れている時は
家のほうが動いているような気がする
そう考えると足元がぐらついて
ああでもないこうでもないと
心臓に暗い汁が溜まってきて
余計なことを考えないように ....
晩遅く帰った宅の
戸をからからと引いて
玄関先に靴が揃えられている
その脇をすっと通る
長い廊下にはぼんやりと俯き加減の
男や女が行き交っていて
もうさすがに惑わされることはないが
とう ....
ひじきを煮付けていて
鍋の中はまっくらやみの夜
手を差し入れればぐいとつかむものがあり
イヤダイヤダと言っているうちに
連れて行かれた海の底で
おまえはうみうしになる
立派なうみうしになれ ....
原っぱに出かけよう
そこには盆の間にだけ
夏の組合の人たちが見え隠れし
錆びついた刃物や
色とりどりの皿を持ち寄って
陽気な盆踊りを踊っている
陽気な音楽に誘われて
物を知らない子供が迷 ....
まだ夕方だというのに眠くて
すこし横になっておこうかと考えているうちに
いつのまにか眠りがやってくる
目を覚ますととうに外は暗い
諦めてこのまま寝直してしまおう
と、その前に水を一口

 ....
{引用=
小学校の桜にいつか辿り着く 吉田右門

学校前の坂を上っていくと
コンクリートで固められた左手の斜面に
ぴたりとはめ込まれた形の地蔵がいて
土の猛威を抑えているのか
背中を見 ....
棚の上には
黒いローマの熊が立ち上がる
人形の髪は長く伸びる

わたしは眠いのを我慢して
こっくりと頭を傾ける度に
その度に舌を噛み切ってしまわないか
冷静に算段する
枕が熱くて眠れない
という風に文字が頭に入らなくて
本をあれこれとっかえひっかえしている
花瓶に挿しっぱなしの花は枯れ
早く替えないといけないなと思う
窓の外は静かな真夏日
届くはずの郵便 ....
どこまで行っても焼けた道が続くものだから
どうにもやりきれなくなって
木陰で休んでいる行商に暑いですね
魚ですか? と聞いてみる
おばあちゃんはにこにこして
なまこを売りよんよ、と氷を敷き詰 ....
叔父が川で釣ってきた魚を
金魚の水槽に入れておいたら
次の日には金魚が一匹いなくなっていた
その次の日にはもう一匹
さらに次の日にはもう一匹
しまいには金魚はすべて消えてしまって
うす黒い ....
大前提として、詩作品を評する時、通常は詩の中の主体を作者と同一視しません。私が興味を持つのは作者個人のパーソナリテイにではなく、作品を通して読み取れる普遍的な「なにか」です。この「なにか」というのは広 .... 不穏な色をした空に
待ち焦がれていた雷が鳴ると
大急ぎで台所に立って
山盛りのサラダを用意する
ボウルを抱え
窓の前に陣取り
ぽつぽつと落ちてきた雨に
もっと土砂降りになれ
空が割れる ....
雨戸を閉めきった家が並ぶ
かんかん照りの通りを行く
夏の盛りの日中
打ち水のあとも乾いた道には
猫の一匹もいない
影ですら焼き付くよう
こんな時にどこからか
トロイメライが流れてきたら
 ....
女の子が一人で
木陰に立っていて
朝からずっといるし
ここらへんでは見ない子だから
なんだか不思議だなと思う
誰かを待っているのかな
それともかくれんぼをしているうちに
家に帰れなくなっ ....
あなたのおうちの
ありじごくを見せてください
お手間は取らせませんから
男はそう言って庭に回り
しばらくあちらこちらと
何ほどか検討をつけていたが
おもむろにしゃがみ込み
ほらこんなとこ ....
雨が降らないうちに
えのころ草を刈りにきた
町外れの原っぱには風が吹いて
無数のえのころが揺れている
どれも丸々と太って
互いに体をこすりつけながら
刈り取られるのを今か今かと待っている
 ....
冬に放った雪玉は
楡の木立を弾んで踊り
地蔵の額にこつんと当たる
なにかと思った地蔵は手を上げ
叩いた手には血を吸った蚊
閉めきった襖は光を遮り
格子はいつもかくかくと白い
赤いお手玉ぽ ....
百年の間には
どれくらいの人が土に還ったのか
誰にともなく問うと
最近は火葬ばかりだから
それほど多くはないんじゃないか
と答えが返ってくる
縫い物の手を止めて振り向けば
ねぎ坊主がぐら ....
夜からの雨は
屋根を洗って海へ抜けた
わたしは誰もいない店で
外で吠えている犬の声を聞きながら
小僧のように座っている
なにもすることがないとは
お客が来ないとは
本当にかなしいものであ ....
片隅で中国語が聞こえている
それが意味するもの

空にかかる
「月は古い飴玉」
「海は流れ出た油」
それが町中に広がり夜になる
それがわかる

眠れないのなら
眠らなくてもいい
 ....
駅ビルの中で方角を見失ってしまう
エレベーターの混雑や
エスカレーターの昇り降りで
心は6Fあたりをいつまでもさまよう

閉店間際に
ようやく辿り着いた書店では
探している本は見つからな ....
春日線香(330)
タイトル カテゴリ Point 日付
桃太郎自由詩313/12/20 20:58
ストーブ自由詩313/12/7 16:36
鬼あざみ自由詩213/9/30 19:16
りんご自由詩313/9/30 4:24
紫色の紙自由詩613/9/30 4:05
かなしい唄自由詩713/9/26 21:34
道しるべ自由詩313/9/21 20:23
かぶと虫になる自由詩4*13/9/10 17:16
暗峠自由詩713/9/9 3:50
人形劇自由詩413/9/2 19:27
錯視自由詩6*13/8/30 0:59
夜中の生き物自由詩2*13/8/21 20:59
盆踊り自由詩213/8/17 16:07
洪水の夜自由詩313/8/16 17:21
別府湾自由詩5*13/8/7 12:26
居眠り自由詩213/7/29 23:25
命日自由詩013/7/25 14:50
なまこ料理自由詩3*13/7/24 15:00
水槽自由詩213/7/21 22:57
atsuchan69「首のないM」について散文(批評 ...313/7/17 19:39
夕立自由詩413/7/14 16:50
トロイメライ自由詩713/7/14 9:15
巴旦杏自由詩213/7/13 11:42
蟻地獄自由詩3*13/7/12 19:45
えのころ草自由詩10*13/7/12 18:14
お手玉自由詩413/7/10 13:54
ねぎ坊主自由詩313/7/5 12:26
店番自由詩713/7/5 12:25
観葉植物自由詩313/6/29 5:39
方向感覚自由詩213/6/23 4:19

Home 戻る 最新へ 次へ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 
0.09sec.