怒りとも悲しみともつかない咆哮が脳裏でずっと続いていた、目蓋と眼球の間に、書き上げることが出来ない手紙が、皺にならないように丁寧に慎重に差し込まれているみたいで、そんな行場のない思いは瘡蓋の下でじ ....
手頃な刃物で踝に刻んだ言葉は小さく、それは告白でも独白でもなく
ただただ痛みと、意味と共に在り
どうぞ私の手をお取りください、苦しみと、悲しみに潜む言葉たちの種よ
大衆食堂の裏側、排気ダ ....
世界の糊代に迷い込み、四方八方、己の居場所とはまるで違う有様で、色の薄い一日が繰り返される、精神異常者が見る見境の無い夢のような日常の中で、思考は数十年放置された廃屋の窓ガラスのようにひび割れ、所 ....
標準ジャップ、標準ジャップ
標準ジャップ、標準ジャップ
オンギャと生まれたその瞬間、だけは
天使のようないい子でした
家に帰ったその瞬間から、乳くれ早くくれ今くれと
朝と泣く昼と ....
あなたは冷たい水に手を浸して、至高の果実はきっと血の混じった奇妙な味がするでしょう、わたしの心は茨の蔓で情け容赦なくくるまれて、わずかな動作で果てしなく食い込む痛みで朦朧とするでしょう、時はもはや ....
擦れ合うふたつの金属のような
疫病の女の叫び声が
複雑に入り組んだ路地で反響を繰り返し
縺れ合っては消えていく雨交じりの夜明け前
悪夢から滑落した俺は
自分がまだ生きているのか確かめてい ....
あとは標的を見つけるのみ、といった感じの鋭角的な光線は、ちょうど天井の一角を貫こうとでもするみたいに壁を走っていた、がらんとした部屋の中に突然展開されたそんな光景は、時代錯誤なパンク・ロックバンドのジ ....
光線の行方の向こうに、ねじくれた俺の鼓動が放置されていた、俺は震える手でそれを拾い上げ、正しいリズムを言い聞かせたが、そいつはいうことをきかなかった、「それは医学的見解に過ぎない」とそいつは言うの ....
午後の朦朧はおそらくは暑さのせいだけではなく、俺はその理由を知りながらまるで見当もつかないといったていを装っていた、それは意地とも言えたし逃避とも言えた、目を逸らしたいようなおぞましい出来事ほど避 ....
三つの錠剤とヴァイオリン・ソナタ、かすれた窓の前で漂っていた、身に着けたシャツの細やかな汚れが、人生を語るみたいに揺れている午後、それは心電図を連想させる、無目的の…指が少し痺れているのは眠り過ぎ ....
それは古いコンクリート建築で、ステージを取っ払ったライブハウスか、あるいは陳列棚を置き忘れたマーケットのように見えた。俺は入口付近にぼんやりと立っていて、手ぶらだった。左手側の壁面が俺の腰の高さ辺 ....
時の流れに飲み込まれていく生命の波動をこぼすまいともがき、足掻き、意味の判らぬ声を発する、その刹那、常識と限界を飛び越えた者だけが新しい詩を得るだろう、漆黒の闇の中でも、微かな火種さえあれば光は生 ....
きちがいじみた雨の夜に骨まで濡れた俺は自然公園の多目的トイレを占拠して身体に張り付いた衣服をすべて剥ぎ取り蛇口だのなんだのに引っ掛けて便座に腰を下ろして朝までを過ごした、当然寝つきは良くなかったし ....
雨こそ降りはしなかったが、街はどんよりとした雲と湿気に満ちていた、人と擦れ違うのが煩わしくなり、小さな道へと逃げ込んだ、歩いているうちに、その先に昔、数十年は前に、死に絶えた通りがあることを思い出 ....
おまえはやわらかなうたを抱いて
音のない振幅をくりかえす
サンデー・モーニング、ディランは60年代のまま
新しい世紀にまた産声をあげる
高圧電線のそばで甲高い鳴声をばらまく ....
回転体のオブジェの間を潜り抜けて、濃紺の闇の中で和音の乱れた子守唄を聞いた、心の中に忍び込んだそいつらの感触は夕暮れに似ていて、ノスタルジーは現在と比べられた途端に苛立ちへと変わる、犬のように牙を剥き ....
おまえの首筋は、薄氷のような
心もとない血管を浮き上がらせて
口もとはうわ言のように
ニール・ヤングの古いメロディを口ずさんでいた
空はどぶねずみの
毛並みと同じ色をして
悲しみに ....
ねじられ、路肩の排水溝のそばに横たわった煙草の空箱が、人類はもう賢くなることはないのだと告げている、六月の夜は湿気のヴェールをまとって、レオス・カラックスの映画みたいな色をしている、そしてこの街に ....
夜を埋め尽くす雨音、夢は断続的に切り取られ、現実は枕の塵と同じだけの…薄っぺらい欠片となって息も絶え絶えだった、寝床の中で、やがてやって来るはずの睡魔を待ちながら、もう数時間が経っていた、かまわな ....
廃れた通り、その先の名前のない草たちが太陽へと貪欲に伸びる荒地のさらにその向こうに、梅雨の晴間の太陽を受けて存分に輝く海があった、水平線の近くでいくつかの船が、運命を見定めようとしているかのように ....
嗄れた外気の中で、うたは旋律を失い、ポエジーは冬の蔦のように絡まったまま変色していた、ポラロイドカメラで写してみたが、案の定浮き上がった風景にそれらは残されてはいなかった、なのでそれを幻覚だと認識した ....
光線は不規則にそこかしこで歪み、まるで意識的になにかを照らすまいと決めているみたいに見えた、ガラス窓の抜け落ちた巨大な長方形の穴の外は無数の騎士たちが剣を翳しているかのような鋭角な木々の枝で遮られてい ....
あぶくは、空襲の記録フィルムを、逆回転させているみたいに
なだらかな曲線を描きながら、届かない水面へとのぼっていきました
遮断された現実の世界の中で、わたしは
眩しくない光というのはこん ....
もしもあなたが詩人になるというのなら
その時点で未来はすべて捨てなさい
あわよくば名を上げて、などと
考えるのならはじめからやめておきなさい
もしもあなたが詩人になるというのな ....
お前の指先が深く沈めた、か細いものの吐瀉物を辿って、黒ずんだ血だまりに俺は辿り着いた、心許ない記憶みたいに浮かんでは消えていく泡はまるで戦争のようだ、俺は気を吐いて手首を切り裂き、流れ出る血をそこ ....
ディスプレイされた
高価なネズミのような
まだあどけないヴァネッサ・パラディの
コンパクト・ディスクの横で
二十八歳のアリサは
アイスピックで自分のこめかみを貫いた
死に塗 ....
十四歳のある日
ぼくは
あらゆるものが
きっとこのままなのだ、ということに
気がついた
ひとは、ある種の
限られたコミュニテイは
このまま
もう
どこにも
行くことはないの ....
漆黒垂れ流す深夜、息の絶えた獣の響かぬ声を聞きながら、寝床の中で目を開き、湿気た記憶の数を数えていた、思えば必ず身内の誰かが脳を病み、自我を曖昧にし、かろうじて自己紹介が可能な程度の人生を生きてい ....
きみはぼくが
スラックスに隠した
キャンディがだいすき
いつでもどこでも
頬張りたがって
ねえ、ねえ、とおねだり
ぼくは、待ってね、と言い
人目を避けて
さっと取り ....
空気清浄機のノイズは俺の知らない言葉で果てしない詩を連ねていた、俺はそれをあまり信用していなかった、埃やカビやダニと一緒に、生きる理由まで吸い込んで排除しているようなそんな気がしたからだ、でもそん ....
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