一輪挿しの花を
わたし達はただ愛で
やがて枯れたならば
裏の畑に埋めて

忘れてしまうでしょう
なぜ、忘れてしまうのでしょう

そうして人々はまたこともなく
明日の朝を、明後日の夕を ....
そのトラックの荷台の隅に乗せてくれないか
行けるところまで風を感じて町を出たいのだ

彼方の空は晴れているのにこの町は陰鬱に曇っている
陽気に歌って曇天をたたこうか、どんどん、どんどん
町は ....
あほうどりはどこかに消えた
たくさんの人間の手が羽をむしり
あほうどりを引き摺り落とした

あほうどりは何処かと思えば
しろい鳥の群れ、冠島のあたりを
ウミネコが、オオミズナギドリが
波 ....
枯れてゆく冬に名前はなく
キャベツ畑の片隅で枯れてゆく草花を
墓標にしても誰もみるものはいない

ただ今日一日を生き抜くことが
大切なんだと、うつむきがちに言う人に
ぼくは沈黙でこたえる、 ....
窓から
射しこむ
ひかりに揺れる
小さな寝顔のうえで
未来がうず巻いている

シエスタ
君は宝島を見つけたのか
シルバー船長や
オウムのフリント
うず巻く海原を越えて
高らかに ....
今日も明日も明後日も
ねんねんころり、ころがって
いつの間にやら朝がくる
小籠の小鳥も眠ったか
あの子も、この子も眠ったか
お月さんお月さん、見ていてよ
そしたらわたしも眠ります

今 ....
ちいさな丘の木立をぬけて奔放に踊るものたち
白みがかった光と戯れる雪華のなかで
あなたのこめかみに浮かぶ青い血の流れ

わたしはそれに触れたい

生命は絶えず流れ、流されて
ふいに出逢っ ....
戸棚のなかには古く硬くなりはじめた
フランスパンに安いチリ産のワイン
書きかけの手紙はすでに発酵し始め
こいつはなんになる? 味噌でも醤油でも
ない、カース・マルツ? 冴えないな

フォル ....
いつか真夜中に犬たちの遠吠えが
飛び交っていたことがある
あれはいつだったか

野良犬というものをいつからか観なくなり
町はひどく清潔で余所余所しくなった
リードに首輪、犬たちも主人により ....
冬の立ち込める並木道は
身を縮めて、息をひそめて
葉ずれや雲を流す空の息吹きを
まとい、深い憂いに口を閉ざし
軽々に言葉を弄さない

冬よ、あなたは何を思うのか
その白き顔(かんばせ)に ....
降り始めた雪に黒い瓦の屋根が
しろくろしている、だれかが走って
いったのか、驚いたように白黒している

近所で赤ん坊のなき声だ
しろくろしてんなぁ
ぼくだって産まれて初めて雪をみて
しろ ....
誰もがそれとわかるように
名前をつけてみましょうか

花と名前をつけます
蜂と名前をつけます
光と名前をつけます

だけれど君がそれを指さすとき
花と戯れる蜂や蜂と戯れる花を
輝かせ ....
小窓から月明かり
納屋のなかでは笑い声
明日は畑に植えられる
種イモたちがくすくす
錆びても鋭い鎌に鉈は
ときおりカタカタ笑い

鉋は葦の笛をふく
春一番が待ち遠しく
女羊飼いが待ち ....
山の稜線が静かに燃えている
白々と、諸人の魂や神々が
頂きへと登りゆく夕まぐれ

誰もがすれ違いながら
互いに頷きあう、それも無意識に
生命が燃えている、あの山の頂きへ
向かうときではな ....
五四年前の東京で
出稼ぎに出ていた大叔父が
なけなしの給料でお前をかったのだ

それから朝も昼も夜も
休むことなく
一日 八万六千四百回
時を刻む勤勉なお前は大叔父の誇りだった

東 ....
あゝ、わたしの枕元に
瑞々しい橙を置いたのはだれでしょう
橙の一つ分、ちょうど掌に一つ分の匂いが
わたしを空に誘います

いつかの夕陽からこぼれ落ちた
橙が
たわわになった
樹々の間を ....
ごぅごぅと言う風と戯れながら
花たちが散り舞いゆくのです

種子は風や鳥や虫に運ばれ
あの町で咲きこの街で咲き
それを見た人たちの心にも
花が咲き乱れ赤、青、黄、
赤、青、黄、花が咲き乱 ....
螢をみたという、この真冬の夜空に
子どもたちは螢をみたというのだ

あれはオリオンではないか
しかし、子どもたちは紛れもなく
螢をみたというから、螢がいたのだ

まだ草笛を好んで吹いてい ....
ほら、樽のなかでお眠りなさい
煩わしいすべてをわすれて

檸檬かしら、いえ、林檎でもいいわ
樽のなかを香気で満たしてあげます

息を潜めて、あ、とも、うん、とも
言わないで猟犬を連れた ....
あの水平線の彼方から
流れつくのは
小指
真白い骨の小指

薬指
橈骨
尺骨
手根骨

拾い上げるたびに白い断片は形を成していく
それは右腕
どこか懐かしい真白い骨
これは私 ....
ひとりの部屋には
ひとり言や鼻唄が
響くだけ響いては
ちいさく、ちいさくなって
ちりやほこりのように積もっていく

忘れたころに気まぐれな
神さまが通り過ぎると
つかの間、舞い上がり
 ....
月曜日は湿気った煙草を吸ってた
嫌になるぐらい肺を膨らませて
病めるときも健やかなるときも
しらねぇよっ、て知らないふり

あの角によくいた犬は?
おれの車のボンネットで昼寝してた
猫は ....
雨の夜の窓のなか
遠くに灯る赤い傘

赤い灯台、雨のなか
近くにゆけば遠ざかり

遠くにあれば懐かしく
夢路の窓は滲みます

あの灯台はなお赤く
赤子の頰もまた赤い

雨の町か ....
おいでんさい、おいでんさい

ここは誰もが座れる
椅子の広場さ

人は空に
空は蜂に
蜂は花に
花は大地に
大地は海に
海は光に
光は蜂に
蜂は花に
花は人に

なにに座 ....
そらが幾層も山に降り積もって
ぼう、と滲んだ白さが上にゆくに
つれて青へと近づいていく

山に登る彼は雲海や山頂からの
景色の素晴らしさを語るのだけれど
彼にはこの山に降り積もるそらは
 ....
眠るひとのいない
ベッド、手摺りには水漏れが、と
書かれていて、シーツには髪の毛が
いっぽん、半ばしろい枝毛のかなしみ

もう増えないであろう
壁や箪笥の上の笑顔や
家族の群れ
灯り ....
わたしの椅子に
誰かが座っていたから
夜の浜辺に座っている

冬の日本海が
風邪をひいたように
ぐずっているから

ハーモニカを吹いてやる
いつまでも吹いてやる

なぜなぜ泣くの ....
西陽が腹にあたって
あたたかだ
ぬくもりだ
猫たちも
丸くなり円くなり
手をのばして
その陽射しをひとつ
棘の無い冬をひとつ
あのひとの笑みをひとつ
すべてひとつずつだけだ
取りす ....
遊び疲れたのか
母親に持たれてねむる
少年を挟んで
父親と母親が
それぞれ、編み針を手に
小さな毛糸の靴下を編んでいる
どちらが欠けても使えない
暖かい色の靴下に見えないものを
編み込 ....
風の終着点は

悠遠と
天から落ちる
滝壺のなか

音に打たれ
落下していく
帆場蔵人(190)
タイトル カテゴリ Point 日付
花の墓自由詩6*19/3/7 14:17
春へ跳べ自由詩6*19/3/3 22:48
信天翁自由詩219/3/2 0:39
冬の墓自由詩11*19/2/24 21:39
午睡の刻自由詩319/2/23 0:28
月ひとつ自由詩219/2/21 14:16
青い血の明滅自由詩419/2/20 14:16
さよならフォルマッジョ自由詩419/2/17 22:53
犬たちへ自由詩4*19/2/17 22:13
白き顔自由詩319/2/15 2:02
しろくろ自由詩219/2/14 22:55
沈黙のなかで自由詩18*19/2/14 1:09
羊飼いの踊り自由詩319/2/13 1:16
稜線自由詩319/2/11 2:15
腕時計への讃歌自由詩2*19/2/11 0:15
自由詩519/2/9 1:34
春想歌曲自由詩419/2/9 1:30
冬の螢自由詩219/2/8 19:38
樽のなかの夢自由詩7*19/2/4 19:11
時の夢自由詩219/2/4 15:38
ひとりの部屋自由詩119/2/4 5:07
乾いた野良犬の鼻自由詩419/2/2 15:24
夜想自由詩219/2/2 1:24
椅子の広場自由詩519/1/27 2:58
そらの積層自由詩519/1/24 21:54
無題自由詩519/1/21 4:23
行き場のない夜に自由詩419/1/21 4:17
ひとつひとつ自由詩4*19/1/13 23:52
駅の待合室自由詩419/1/7 16:59
風の行く末自由詩1*19/1/6 21:57

Home 戻る 最新へ 次へ
1 2 3 4 5 6 7 
0.07sec.