海のきぬ擦れが耳を攫う

だれかに名前を呼ばれた気がしたから
水の色が碧から黒に変わるころに
海豚のやさしい瞳を胸に抱えて
こっそりと{ルビ宙=そら}に顔を出してみた
鳥の嘴が白の甲羅を遠 ....
ハシバミの枝から
膝頭をつたい
たらたらと流れる
経血の艶
頬を刺す紅の
口許を拭う銀の{ルビ絲=いと}で
ゆっくりと迷宮を搦め
鋼鉄の綾で縛りながら
血潮の徒花を捧げ
甘い毒を流し ....
桃の心臓をかちりと割ると
滴り落ちるのは
椿の深い唐紅花の唇
涙より沁みるのは
歯茎から抜けない
本心の建前
みずみずしく透き通るのは
海に砕けた夏の記憶
恋の夜に{ルビ馨=かお}るほ ....
霧雨に霞む都会は
わたしがいま居る位置さえも
残酷に浮き彫りにさせて
あの日から遠く離れたわたしを
責めるように
憎み罵るように
きょうもひとり静か泣いている
くちびるから洩れた
やわらかな言霊は
鮮やかな弧を画いて
森の揺れる夏の午後
無垢な白い笑い声を背に
七色の橋を渡って
空を掴もうと伸ばした
ゆびのすきま
棚引く髪の小高い丘のうえ
 ....
わたし桜の花になりたい
ふたり出逢ったころ
空を埋めつくすように咲いていた
あの満開の桜の花になりたい

わたし風になりたい
いつもふたりのまわりを取り囲んでいた
あのやわらかな風になり ....
光が透けて眼覚める朝
風に名前を呼ばれる昼
花に孤独を癒される夜

月のしずくにうたれて
わたしは眠る
追いかけるのはいつかの夢
{ルビ揺蕩=たゆた}うのは幸福だったころの記憶
抱きしめるのはあのひとの気配
口づけるのは囁かれた愛のことば
燦燦たる陽のしたで赤く爛れるのは向日葵の花

瞬きの ....
月下美人(8)
タイトル カテゴリ Point 日付
真珠いろの月の晩に自由詩15*08/9/18 23:16
いばら姫自由詩7*08/6/13 22:40
水蜜桃自由詩14*08/6/4 20:33
霧雨自由詩2*07/10/16 14:42
シャボン玉自由詩7*07/10/3 10:55
ひだまり自由詩5*07/10/1 11:31
一日自由詩4*07/9/14 11:24
花のなまえ自由詩13*07/9/10 16:58

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