その角を曲がったら人の命が縮まるよ、と噂好きに脅されたのを気にしながら、私は暗い汚い細道へ入っていった。建物の壁が全部同じ色に染まっていて気味が悪かった。ぱらぱらと降る雨粒は水滴ではない何かくすんだ ....
個展を開いてから死にたいと思った別離は、安価で借りられるギャラリーを探して狭い街を訪れていた。気怠さが頭の表面に集まって髪の毛の先端から逃げていく、というイメージを強く抱いていた。そのイメージが自分 ....
私は私の作った装置に追いかけられていた。
それは一人掛けのソファほどの大きさがある機体を持ち、無数のプロペラや車輪を備え地上と空中を縦横に移動することができる。高度な人工知能による制御で自律的に ....
「家が裕福で顔立ちも優れた青年が《街》におり、」とその物語は語り出される。
思い掛けない一角から起こる破裂音が年々音量と頻度を増しているこの街の中で、世代を越えて変わらない物はこの上演会だけだった ....
恋人にもらった架空の靴で街を歩こうか。
(逐われる度に痛むんだ心臓が)
精神を病めば幽霊が見られなくなるんじゃないか?
(湿地で恋を叫びながら踊る人間たち)
かつての人は豹変する。
....
わたしの間に箸が挟まれていて、
それが素麺をつかもうと懸命に身体を動かしている夢を見た
目が覚めると私は左手の箸で素麺を摘まみ取ろうとしていて、
あるか知れない数条の麺をさがしつづけていたの ....
昔馴染みの友人と町を歩いていて、歩道の隅にけものの彫像が置かれている一角に差し掛かった。
「そういえば、この辺りで幽霊を見た、という話を聞いたことがある」
何の気もなくそんな話を始めると友人は ....
自分のことをトーマスと呼ぶ少年の体は青く粉を吹いてた
転職しても家事の基本は身に付かず二階の窓の日射しまぶしく
私は大丈夫になると文字が読めるシミュラクラ楽園の地図は模様
両足の無い ....
私がその古道具屋を出てから間もなく、注文した本が自宅に届いたと知らせがあった。その本は鍋料理のレシピ本であり、失踪した料理研究家の最後の著書だという。料理は普段ほとんどしないのだが、表紙に載っている ....
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