借り物をした

いつか返さなくては

それがいつなのか
何を返すのか
定かではない

おそらく何もかもだろう
朝の光も
夜の静けさも

身体の奥のほう
ちりちり燃える
かす ....
別の星から
花を摘んできた

それはそれは
大変な旅路だった

いろいろなものを失った
財産や名誉
同行していた友人たち

そしてこころ

すっかり空っぽになって
一輪の花を ....
声をかけずに
放っておいたら

影も形もなくなっていた

扉が開く音はしなかったので
窓から吹いていったのだろう

これでようやく
名前がつくかな

はじめまして
すっかり変わってしまった

十年前とも
二十年前とも

百年前とは
何も変わっていないかも
どうやらひとつの
物語を生きるらしい

月、日、星
月、日、星

二度と会えないこ ....
人生の意味を教えてあげよう
布団から抜け出す前の
数十分の王国で
迫間には黄金がちらほら
むにゃむにゃと囀りながら
パジャマの上を飛び回る鳥がいる
悪人であろうと善人であろうと
何の問題 ....
タンスの引き出しを開け
下から二段目の引き出しを開け
折り畳まれていたものを取り出す
平たいそれにぷすりと針をさし
シュコシュコ空気を入れると
たちまち一人の人間が現れ
途端に勢いよくしゃ ....
誰かの
苦笑いになりたい

遠い遠い朝
名前も知らない街で

銀色の少女が
荷物を置く

馬の尻尾が
風に揺れる時

あるいは
グラスの氷が時間を数え
からり、と音を立てる ....
時間になると
犬が呼びに来る
首輪に紐を結びつけ
散歩へと連れ出す
私が立ち止まると
犬も立ち止まる
空似た他人とすれちがうとき
いいから行くよと
紐を引っ張る
雨の日は合羽を着込み ....
このペンが
最後に記す言葉はなんだろう
感謝の言葉だろうか
それとも呪いの言葉だろうか
生まれた街の名前とか
(せんだい、とか?)
好物の名前とか
(カレーライス、とか?)
誰かの名前 ....
山賊を職業にした
この
AI普及真っ只中の世の中で
恥ずかしい話だが
いや、だからこそかもしれない
AIは追い剥ぎなんて
まさかしないだろうし
極めて人間的な職業といえよう
着物を着崩 ....
白い絹のような夜
双子の一人は
もう一人を揺さぶる
隠されたおもちゃの
在り処を聞き出すため
哲学的な問答の
何度も
何度でも
蒸し返されることといったら!
起こされた一人は
寝ぼ ....
おびえる人がいる
何にというわけでもなく
ただ怖がっている
その人は不老不死なので
ずっとおびえ続けなくてはならない
村人はその人を
なぜか大切にした
働きもせずおびえているその人に
 ....
街なかに馬を探しに行くという
そんなところにいないよと
馬というのは野生のもので
人がいないところにいるものなのよと
周囲の者が言って聞かせても
聞く耳を持たない
双子は白い画用紙に描いた ....
だいたい
車の中で泣いている
その時間が欲しいので
行き帰りは渋滞の道を通る
きちんと車を降りるため
きちんと地球を歩くため
イセイジンノワタシハ
だいたい車中で済ませてしまう
天候を気にする

自分が住んでいるところ
だけでなく
誰かが住んでいるところ

暑くなりそう
とか
今日もくもりか
とか
傘は何色だろう
なんて

けれど
何も言わない
 ....
それならばこれで、
というお別れの仕方が
あまりによかったもので
それがそのまま
別れの挨拶になったというわけなのだ

そこには指示語が含まれている
指し示すのは
それまでのかかわりす ....
明日はなにをしようかな

そうだ、
生きよう

誰でもなくていい
幸せでなくたって

季節の風が吹いている
それなりに成長した木なので
横たわるとベッドからはみ出してしまいそうだ
実際、回診の時
医師は枝分かれした根っこの末端を
注意深くよけながら
ベッドの周りを移動しなければならなかった
根っ ....
木と木が戦争を始めた

理由は
神から見れば些細な話だったが
当事者にとっては重要な案件だった

どちらの枝がより高く
空を侵しているか
どちらの根がより深く
土をまさぐっているか
 ....
目が覚めてカーテンを開けると
一面の大海原だ
小高い丘や孤島すらない
たった一晩で
こんなに様変わりするとは
人生何が起こるか本当にわからない
隣の布団を見るとすでにもぬけの殻で
光る鱗 ....
木が
出勤する
細長い体を折り曲げて
平べったい車のアクセルを踏む
木が
押印する
枝のような指と指の間に器用にはさみ
重要書類にぺたり、と押し付ける
木が
驚愕する
予想外の出来 ....
眠りの国に戻りたいけど
扉はすぐに閉ざされてしまった
誰も知らない金属でできていて
こじあけるのは容易ではない
布団の中で孤児になり
なくした祖国を懐かしもうか
そうこうするうち外が明るむ ....
思い出し笑いよ
いつの日か

いくつかの
別離の後の
いくつもの
沈黙の先に

やってくる
明後日の群れ

名前を忘れても
台詞を忘れても

同じ匂いの風が
頬を
 ....
人は変わる
かなしみか、よろこびか

雲の形が変わるように
誰かの声も変わる
その声で呼ばれても
きっと気が付かないだろう

わたしもまた
変わってしまった
にくしみか、いとおしさ ....
あなたはつづき

かつていた
誰かのように歩き
かつていた
誰かのように迷う

纏っているのは
誰かの悲しみのつづき
そうやって続けていれば
いつかは悲しみ終るかな

いや
 ....
答えは無人駅に

各駅停車ではないから
いつもは拾えない

長いまどろみの後でふと
車窓から外を眺めると
満開の桜並木

目がくらむ

駅の方では知っていた
足が言うことを聞かない

聖地に赴くはずが
とある浜辺に着いてしまった

あの日
地面は大きく揺れて
その日
夜空は異様に瞬いていた

おそらく
人がたくさん流されたからだ
そ ....
知らないうちに
パンがふくらんでいる

予言者が記したごとく
町の胃袋を満たすため

欲望は時に静かで
時に神聖だ
魚の風上にもおけない

言葉なんて
エラはどうした
ヒレはどうなる

どうやら夜は
終わったみたい

陸に上がった輩は
明後日の方向につぶやく

海は素敵だ
歯磨きをするように
詩を書くといい

日に三度
多い人なら五度か六度

前歯や奥歯を
乳歯や親知らずを

そして栄えある
永久歯を

いつくしむように
いましめるように
やまうちあつし(469)
タイトル カテゴリ Point 日付
返却自由詩3*24/3/21 14:32
うつくしさ自由詩324/3/19 10:22
風歌自由詩5*24/2/22 16:29
ものがたり自由詩324/2/11 10:33
マドロム異聞自由詩124/1/30 10:32
何事自由詩224/1/15 9:18
苦笑い自由詩123/10/16 18:01
人の散歩自由詩223/9/29 6:17
唯言自由詩023/9/25 15:47
山賊2023自由詩4*23/9/17 6:18
双子の遊び自由詩3*23/9/12 15:23
おびえる人自由詩4*23/9/1 6:59
自由詩1*23/8/26 18:59
車中泣く自由詩023/8/8 12:06
天候自由詩123/8/7 12:52
さようなら自由詩1*23/8/1 8:20
明るい日自由詩5*23/7/9 10:46
誤診自由詩123/7/1 14:38
木の戦争自由詩023/6/9 16:37
旅立つアルファ自由詩123/5/21 13:33
きが自由詩2*23/5/1 7:31
アカルム滞在記自由詩223/4/20 11:21
再会自由詩2*23/4/13 17:13
光る虫自由詩223/4/11 15:03
つづき自由詩323/3/27 12:52
こたえ自由詩123/2/17 7:29
かよう自由詩223/2/3 14:53
夜のパン自由詩123/2/1 14:28
魚ごっこ自由詩023/1/30 14:53
歯科詩集自由詩223/1/26 17:07

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