遍路道の長い階段を
杖にすがってのろのろ登る
持鈴の響きが風のざわめきを寸断する
線香と蠟燭はちゃんと持参している


駐車場に整備された多目的トイレに
行き倒れ同然で寝泊まりする人 ....
農道で戦車を追い越す軽トラは
収穫したサツマイモを満載している
焼酎造ってるほうが平和だがな
軽トラの若者は思うけど
アル中の父親のいる家族にとっては
ちっとも平和なんかじゃない
砲塔はじ ....
シャカイ系のアニメばかり見ている
フェータルなのか?
そう問えるだけfatalではなかった
地雷で下半身が吹き飛んだ人が
そんな質問はできない


彼は純粋なイケメンだから
コミュニテ ....
あいつはあのまま
日本に居るべきだったんだ


自分が二人存在することに
人は耐えられない
NYの汚らしい街へ来て
地面を這いずり回っている俺
もう一人の俺は
おしゃれな避暑地で
 ....
横笛
虫の音のことにいでつるあはれかな 高きくもゐに月ぞてりける

鈴虫
なげけどもよをふる月のおほかたは 虫の音にだにまさる露かな

夕霧
なるる身の古きよすがをつつゐづつ くちつる袖 ....
船の窓から宇宙を眺めると中性になる
雲は薄っぺらな模様になって
海の青のところどころに
赤茶色と緑とに塗られた陸地が
安物のTシャツのプリントになっている


そのプリントの上で
生ま ....
ご神体は山だった
うさぎは皆に撫でられて
頭と耳がぴかぴか光っている
カレル橋のヤンネポの犬もそうだった
ウイルスが沁みこんでいる
だだっ広い草原に意味不明な巨石
群がる観光客を羊だと思っ ....
真木柱
ここかとぞ思ひかけどもにほのうみ 行きまどひぬるたななしをぶね

梅枝
としふれば灯すにはびのけなげさも まつの枯れ木のほむらとぞ見る

藤裏葉
ふたばより心かけにしむらさきの  ....
赤煉瓦の港町は
後ろ暗い汚物が一掃され
うわべだけは瀟洒な衣装を着ている
遠い国からの荷物に潜んだ
赤い蜘蛛にとっては新天地だ
交響曲が聞こえてくる


泥とあぶらが染みついた服で
 ....
「自分を信じなさい」


そう言った詩人は
認知症になって
譫妄の森の小径の彼方に光を見て
まだあどけなさを顎に残した少女に恋をした


グループホームなどなかった時代
煙突の底か ....
道路に落ちて
雨に濡れた紙飛行機は
どうしようもなくみっともなくて
翼に乗せていたはずの夢は
タイヤの模様に変わっている
行き交う車に踏まれて
アルミニウムの円盤になった
一円玉が隣でし ....

夏の夜はほたるわたりしたきがはに やがてしぐるるあきの山風

常夏
山ふかみいほのまがきに咲きのこる 風にゆりつるなでしこの花

篝火
かがり火にいざなはるるや 夏虫のあきかぜ ....
薄雲
かへりくればをちかたびとの袖にもや 露をおかせるあきの月影

朝顔
あひそへど上の空なるけしきにて 浮きねのをしのこゑはものかは

少女
おもへども雲居にまどふ ....
橋は爆破された
ただの子競り合いだと
ささいなことだと言う
生まれてきて生きて
そして死ぬ
やせ細るまで続くはずの
一本の糸が
ふいに断ち切られる
何本 ....
明石
もしほ焼く海人のころものかわけどもきえかへる夜の袖におくつゆ

澪標
かずならぬみをつくせども難波潟ふしのまほどとうきよはわたる

蓬生
あきの花もかれて果てつるわが庭のまつのみ青 ....
紅葉賀
散りゆくをあはれとおもへ 色おほき打ち振る袖にゆかりとぞ見る

花宴
あづさゆみいるさの山の端の月の 入るをせかすなしののめの鳥


かぎりあるちぎりのはてをうらみわび ゆくへ ....
ホスピスにいるきみは
もう夢を見ない

たいしたことじゃない
ことさらそんなふうに振舞う
明るく冗談なんか言って

思い出話が尽きると
それ以上の言葉は出てこない
何を話せばいいのか ....
異国の言葉とびかう
井戸は若狭につながっている
帰省していた彼は
重い瓦に押しつぶされた


壁は厳然とそこにあって
何が起こってもくずれない
宇宙が一点に収斂しても
また膨張して壁 ....
桐壺
雲居よりかずならぬ身とすずむしの つゆけきあきをいかが過ぐさむ

帚木
ふきむすぶ露にしをるるとこなつの すがたも知らぬあだごころかな

空蝉
うつせみの脱ぎすべしぬるうすぎぬの  ....
きみまつとひまより漏れしさゆる月とはず語りの風の音かな

あたらしき年むかふるを言祝げば吉事しけやと小松かざさむ

あらたまの年ふるごとにうつれどもみづ砥く岩に月ぞやどれる

春あさき ....
悪い人が一人も登場しないお話がいいと思った
山も谷もなく 主人公は風に靡くすすきの穂で
ささやかに生まれて ささやかに暮らして
そしてささやかに死んでいく それだけのお話


セーヌの ....
雑草が伸び放題になって
家庭菜園だったらしい一画に
突き刺さったまま 残された
ステンレスのスコップを覆い隠している


ときおり救急車が
音を消したままひそやかにやって来る
パト ....
カブールのニュースを見ていた
七つ釦に憧れた少年だった祖父が
「あれは昔のあれといっしょやな」
ふと思い出してつぶやく 諦めたように


いにしえの教えに戻りたい人たちが
キリスト教 ....
きみの笑顔が欲しくて
生きてきたのかもしれない
きみの苦しみは あたしの外側にある
その時が流れ去るのを待っているしかない


いくら寄り添ってもたどりつけない
深い井戸の底から見上 ....
月見草バケツ転がすトタン屋根雨の底へと金魚が沈む

アマビエを描いた短冊笹飾り願い事までパンダが食べる

ポイントが貯まってよろこぶきみの部屋がらくた溢れ窓も見えない

信号もつかない ....
たまさかにあひ見しきみが声づかひことなしぶるや見初めしがごと

風たえて葉のおとづれもしづまりぬ待つまきの戸にむせぶひぐらし

ちぎりしもあき立つ風にうつせみのよしなしごとと変はり果つらむ
 ....
古い文庫本の背表紙に
張り付いて煎餅になった蚊の
周りに描かれた茶色い地図は
それを読んだ誰かの血


まだ賑やかだったころ
白い箱を置いてアコーディオンを弾いていた
片脚のない白 ....
ともした線香の香りが連れて行く
どこかへ行ってた盆の夜
鏡を見れば どことも言えず
いとしい人の面影がよみがえる


今生の人よりも はるかに多い
過去の死者と 未来に生まれてくる者 ....
城の広場の片隅で
なすすべもなくヴァイオリンを弾いている
餌をくれるんじゃないかと
鳩だけが集まってくる


老人は長年勤めた役所から自由になった
巨大な甲虫は目立たぬよう息を潜めて
 ....
都会の蝉は真夜中にも鳴く 
故郷の山は静まりかえっている
耳の奥で通奏低音
ただでさえ寝苦しいのに


あまり暑いと鬱になる
生きていけるのか なんて思う
そして やっぱり生きていたい ....
藤原絵理子(255)
タイトル カテゴリ Point 日付
巡礼自由詩124/4/20 22:25
ナイル殺人事件自由詩324/4/16 21:36
比喩について自由詩224/4/12 21:09
離山房自由詩324/4/8 17:43
源氏 其の七短歌124/4/7 20:32
ヤー・チャイカ自由詩1124/4/6 18:19
ぎんなん自由詩324/4/4 21:04
源氏 其の六短歌124/4/2 20:44
悲しい酒自由詩924/3/31 18:31
文豪の面影自由詩324/3/29 21:25
戦い自由詩824/3/28 20:45
源氏 其の五短歌224/3/14 21:47
源氏 其の四短歌124/2/20 21:21
海の向こうで自由詩424/2/20 21:17
源氏 其の三短歌224/2/15 21:08
源氏 其の二短歌224/1/10 21:02
友に自由詩224/1/10 20:57
地震自由詩224/1/4 22:02
源氏 其の一短歌124/1/3 23:40
冬哥短歌122/1/23 23:39
ジヴェルニー自由詩521/12/23 21:26
夜歩く自由詩221/9/12 0:17
遠い国自由詩421/9/7 23:26
避暑地の恋自由詩321/8/29 23:33
雑歌短歌2*21/8/28 15:50
夏歌とて短歌1*21/8/25 0:49
アーケード自由詩2*21/8/23 17:46
送り火自由詩6*21/8/18 23:45
プラハ自由詩4*21/8/13 21:28
エアコンの熱風とコンビニの明かり自由詩3*21/8/11 22:11

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