ポイントのコメント
[深水遊脚]
対象作品への思い入れの深さが心地よい文章です。批評本文を書いた人のバックグラウンドが伝わる詩評は、それを読む者に、対象の詩と批評本文の両方に無理なく接することを可能にする、ありがたいものです。
「端麗に折りたたまれた」の部分は、きっと厳格な習慣と表裏一体です。有無を言わさず従っていた様々な約束事と、ハメを外す為の祭りと、そうしたものに囲まれたうえで、寄り添って暮らす一人ひとりの思いと仲間への気づかいがあるのでしょう。対象の詩には、あまり根拠はないのですが、人との繋がりが希薄な都市生活者が抱える問題や悩みが投影されている気がします。
もっともいまの農村では、村の掟やお祭りは、昔からの寄り合いを辛うじて繋ぎとめるものであり、農作業や牧畜以外に村の生活に入り込むものが多いです。会社勤めをしている人もいるかもしれないし、大型のスーパーやホームセンターで必要な道具や畑で作らない野菜、薬なども手に入ります。都会ほどではないにしても新聞、雑誌、本、あるいは着る服なども普通に手に入り、それでも満たされない人はネット通販でいろいろ買えたりします。厳格な習慣の根拠だった神様や仏様、みえざる者への畏怖が、この環境で維持されるかどうか心もとない状況です。そんな状況だから抱えている問題や悩みも都市生活者のそれに近く、昔ながらの端麗な生活への憧れが心を捉えるのかもしれません。
昔からのお祭りや、ずっと受け継がれている神様は私の身近にもあります。もう少し若かったらそれらに対する感受性も鈍いものだったかもしれません。私にとってもこの詩は大切なものとなりそうです。
もう一点、ネットで発表される作品の揺れ動きについて書きます。発表した詩が、寄せられたコメントを経て変わってゆき、その結果いくつかの異なるバージョンがネットに発表された場合、発表されたすべてのバージョンについて、それを愛読する読者が存在することを、作者は心に留めておいたほうが良いです。今回のこの批評は、まさしくその実例でしょう。
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