ポイントのコメント
[アラガイs]
「卒業記念」四人で旅行へ行こうとM男が突然もちかけてきた 。M男は女子高の彼女と何年も付き合っていた。なんだよこいつら…まったく、よく続いてんな、と、僕は小馬鹿にしていたが、内心嫉妬していたのも事実だった 。いくら体育会系の僕でもべつに硬派な方ではなかったと思う。しかしなぜかM男のまわりにはいつも女の子がいた 。顔もあたまも劣ってるくせによ、んなお調子もんが…。そんなM男が彼女の同級生を誘って四人で旅行に行こうぜ! と、言い出したのである 。 (後輩の合宿に行ってくるから…)お金がなかった僕は両親に泣きついた 。ほろ酔い顔を弛ませて 親父は機嫌よく工面してくれた。 桜の芽吹きにはまだ少しはやい。駅に着くと用心に持っていったダウンのコートを四人は羽織った。三月の道後はまだ肌寒かった。 アーケードの見える商店街通りへ入ると、人並みは浴衣に羽織姿の着物がふえてくる 。 M男と彼女は土産の店を見つける度に立ち止まった。たまに手を握りあったりして、愉快に品定めを繰り返している 。 彼女に付いてきた同級生のU子はおとなしそうな娘だった。顔はいまいち垢抜けないが、スタイルはよくて、セミに伸ばした髪の毛からはジャスミン香の匂いがした 。 宿は四人が泊まるには充分な広さの部屋だった。M男はこういうところはよく気がつく奴だ 。大学生と称してビール二本とお銚子をを仲井さんに注文する。蟹足の入った鍋をつつきながら、四人はたちまち酔ってしまった 。 道後本館の元湯はとても熱く、酔いも冷めないうちに四人は飛び出すと、ネオン輝く地図を頼りに土手沿いを歩いた 。 蒸気に蒸れる肌を風が横切ってゆく。ここに来てはじめて卒業した実感を味わっている。薄暗い夜の空へ蒸発してゆく、冷たい風は甘く心地よかった。 。呑みなれない酒に酔ったせいもあって、M男と彼女の背中は沸騰している 。 僕とU子は、彼女の進路についてだとか、これから何をしたいとか、将来の話しを交わしながら千鳥足のうしろをゆっくりと付いていく 。しばらく夜風に歩いていると熱も冷めてくる。あたまの中だけが朦朧と灯りに酔っている。見知らぬ街をさ迷う、青い柚子のような四人連れ。少し眠くなってきたのか(そろそろ 引き返す?)M男の彼女はすっかりピンク色に蒸気した頬を振り返って、言った 。 (寒くなってきたね、帰ろうか? )U子が僕に抱きつくくらい強く腕組みをしながら、桃のような顔で囁いた 。 (え! もう帰るのかよ ) 今、思い起こしてみるとこれがいけなかったのだ 。 ネオンに近づくと妖しい街の誘惑に人は引き込まれてゆく。 歩いていると、目にするのは怪しげな灯りに照らされた看板の数々。店の前には露骨な姿をした大人の女性が僕たちをじろじろと眺めてくる 。 腰のしまったチャイニーズスタイル 。おもわず目を背けたくなる様な大きく開いた胸元。薄く透けた短いフリルが、蝶に揺れ僕の目のなかを跳ねている。客引きをしている女性の赤い唇から吐き出されるS字を描く煙。〜チラリ、太ももから切れ込んだ黒い下着が異質に輝いて見えた 。ああ 以前テレビで見た マリリンモンローだ 。 得体も知れない誘惑が僕のあたまを通り越して、口の奥から飛び出してしまった。(お、おまえら、先に、帰っていいから 俺、 もうちょっと 街を見てくる…… ) 部屋へたどり着いたときは3時をまわっていた 。 眠たそうな受付のおやじの口がニヤリと開く。 旅館の名前くらい覚えておけばよかった 。 大人の世界は風船に毒針を刺す。魔性に狩られた後味は、腐った柚子のように苦かった。僕はあれから二時間近くも冷たい夜の街を、ひとり歩きまわってしまった; 部屋に入ると、M男と彼女は乱れた布団の中で潜り込むようにして寝て居た 。まるで死体から這い出てきたような弱々しい髪の毛の流れ、気配を待っていたのか、すぐにU子は気がついた。きっとU子は眠らずに居たのだろう、目のまわりは紅く腫れていた。僕は洗面台にいくと、熱い湯で顔と首筋を洗った。U子の布団には、 甘いジャスミンの香りが漂っていた 。 完 ※まったくのウソ話しなので、疲れました ;
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